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「魔法は探し求めている時が一番楽しい」


by chatnoir009
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研究会@RUSI

 私が現在所属する英国王立防衛安保問題研究所(RUSI)で、ケンブリッジ大学、インテリジェンス研究会(SIG)の合同研究会が行われましたので参加してきました。SIGは主にロンドン大学やケンブリッジ大学のインテリジェンス研究者が合同で行っている勉強会になります。恐らく、現在のイギリスのインテリジェンス研究を牽引しているのが、クリストファー・アンドリュー教授のケンブリッジと、マイケル・グッドマンやジョー・マイヨーロ教授のキングス・カレッジ・ロンドンの2校になるかと思います。
 アンドリュー教授に関しては、情報史研究会のブログでも度々取り上げさせていただきましたが、イギリス情報史研究のパイオニアで、今年出版されるMI5のオフィシャル・ヒストリアンでもあります。この間、教授にこの本について尋ねた所、もう原稿は書き終えて、現在はMI5による検閲中だとおっしゃっていました。個人的には、1960年代に長官を務めたサー・ロジャー・ホリスが本当にソ連のスパイだったかどうかが大変気になるところです。
 グッドマンは若干30代にして、合同情報委員会(JIC)のオフィシャル・ヒストリアンとして、現在はJICの歴史編纂に携わっております。さる筋からの情報によりますと、グッドマンはJICの非公開史料を見放題とのことで、これはなんとも羨ましい限りであります。
 SIGの他にも、オックスフォード大学が主催するOIGやブルネル大学の主催するSISG、アベリストウィス大学のCIISSなどでインテリジェンスが盛んに研究されています。これらの研究グループに関してはおいおいこのブログでも取り上げていきたいと思いますが、お互いのグループ間で仲が悪いというわけでもなく、多くの研究者が複数のグループに所属しています。ここはやはりコレジャリティー(専門家の横の繋がり)を重視する英国ならではのことでしょうか。
 個人的にはSIGは情報史、OIGやSISGは現在のインテリジェンスをめぐる情勢に重きが置かれているように感じました。またこれらの研究会は、私のような部外者でも快く受け入れてくれます。日本のように入会する資格や、誰々の推薦云々という話はありませんが、ただしどこの会でもたいてい一点だけ条件があります。それは「一度皆の前で話をしてくれたら」というものでありまして、これは「きちんと専門的な話をして勉強会に貢献してくれれば、あとはご自由に参加していただいて結構です」というスタンスになるのでしょうか。

 さて、今回のSIGでは、スピーカーに対IRAの専門家とフランス情報部(DGSE)の元幹部の方を招き、アンドリュー、グッドマン両氏による司会進行という形でセミナーが行われました。LSEのイアン・ニッシュ教授もお見かけしましたので、ランチタイムを利用してしばらくお話させていただきました。こういった勉強会の醍醐味は、スピーカーの話もさることながら、ランチやコーヒーブレイクに長い時間が割かれており、その間に色々な研究者と交流できる点にあるのではないかと思います。特に英国の若手の研究者から最新の研究動向や史料について話を聞くことは、我々研究者にとって貴重な情報源となるわけです。現在の情報史の動向はやはり冷戦史に重きが置かれているようですね。
 あと、今回のSIGもそうですが、大体どこのインテリジェンス・セミナーに出かけても、日本人の留学生を見かけるようになりました。これは私がキングス・カレッジにいた9年前と比べると、隔世の感があります。それだけ日本人の間にもインテリジェンス・スタディーズが普及してきたということでしょうか。これはこれで喜ばしい限りです。
研究会@RUSI_e0173454_21101880.jpg

# by chatnoir009 | 2009-02-21 21:02 | インテリジェンス
 ロンドンの在英日本大使館で、日英交流150周年記念行事の一環として、大使館で日英交流に関する記念講演会が開かれました。スピーカーは、英国側はイアン・ニッシュLSE名誉教授、日本側は細谷雄一慶應義塾大学准教授、モデレーターはアントニー・ベストLSE教授という豪華顔ぶれでした。日本大使館はこのような講演会を連続で行っているようですが、今回は上記の諸先生方への挨拶がてら、特に細谷先生はプリンストンからのご参加ということで、久々にお会いするのを楽しみに参加してきました(ちなみに細谷先生のプリンストンでのご活躍は、「細谷雄一の留学記」で詳しく読めます!)。

 現在、日本大使館内では日本のサブカルチャーを普及させる目的なのか、英国人作家の手による「日本風」漫画の展示があり、大変興味深く拝見させていただきました。大使館でいただいた美しいカラーパンフレットにも、鳥獣戯画や見返り美人図に紛れて綾波レイさまのお姿が…!はい、わかります。もはや綾波レイは日本を代表する美人画ということですね。外務省さんもやってくれます。この間もこちらでインテリジェンスを勉強されている若手外交官の方とお話する機会があったのですが、「これからの日本の外交官は、インテリジェンスとサブカルチャーに詳しいことが大前提だコノヤロウ!」と盛り上がってしまいました。

 閑話休題。講演は戦間期における日英関係というやや専門的な内容であったにも関わらず、会場は大入り、日本人よりも英国人の方が多かったような印象でした。まずニッシュ先生から英国側から見た日英同盟の意義、日英での温度差など、ユニークな実例も交えてお話いただき、細谷先生からは日本側から見た日英関係、特に吉田茂や重光葵などいわゆる当時の親英派の対英観について詳しくお話いただきました。一口に吉田と重光と言っても、二人の対英観には微妙な違いがあったことを窺い知ることができたかな、と思います。
  日英交流150周年記念事業_e0173454_21194124.jpgその後、立食パーティーがあり、久々に細谷先生やニッシュ、ベスト両先生との会話を楽しむことができました。細谷先生といえば、御近著、『イギリスとヨーロッパ-孤立と統合の200年』(剄草書房)を編集、出版されたところです。これは日本における英国研究の若手俊英を結集して書かれた、イギリスの対ヨーロッパ政策200年史という壮大な書物であります。一応初学者向けの通史のようですが、それぞれの章はその道の第一人者揃いですので、かなり読み応えがあります。私は戦後の歴史には疎いので、イギリスの対EU政策は特に勉強になりました。日本におけるイギリス外交史研究の層の厚さを実感できる著作です。
# by chatnoir009 | 2009-02-19 09:26 | その他