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「魔法は探し求めている時が一番楽しい」


by chatnoir009
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「5」 in Palestine

 今回も私の所に送られてきた論文、Calder Walton, “British Intelligence and the Mandate of Palestine; Threats to British National Security Immediately After the Second World War” (INS, Vol.23, No.4 Aug 2008) の紹介になります。ちょうど今、イスラエルのモサドについて調査しておりまして、この論文は私の関心にヒットしたわけであります。
 著者のウォルトン博士は、またもやケンブリッジのアンドリュー・ゼミ出身で、現在はダーウィン・カレッジでフェローをされています。恐らく、現在のアンドリュー門下では一番勢いのある若手かと思います。
 さてこの論文は、近年公開されたMI5の資料を使って書かれています。最近の「5」は資料公開に積極的ですし、また講演会やセミナーに出かけても現役の「5」の方を時折見かけます。それに対してMI6の方は全くの秘密主義であり、アカデミズムに対しても協力の欠片もないわけであります。そのため、最近のイギリスのインテリジェンス研究は、主に「5」の資料を使って執筆されることが多いです。基本的に「5」はセキュリティー・サービスですから、スパイやテロリストを追っかけている資料や、スパイと疑われる人物をマークしている資料ばかりであります。もしデューク東郷が実在していれば、「5」の資料の中に「G資料」といったものが存在していてもおかしくないかと思います(まぁそんなものを作成していることがばれたら確実に消されてしまいますが)。
 近年の「5」の公開資料は、ここで以前取り上げたコミンテルンのもの以外にも、戦後、帝国内の反政府組織などを調査した資料が公開され始めています(SIME, SIFE等)。これはイギリスが植民地から撤退していく過程を克明に記しており、この時期のイギリスのインテリジェンスが何をターゲットにしていたのかが明らかになりつつあります。パレスチナに関して言えば、第二次大戦直後、「イルグン」や「シュテルン」といったユダヤ人の過激派組織が、イスラエル独立のために委任統治国であるイギリス政府に対して一斉にテロを開始します。第二次大戦中のユダヤ人達は、中東においてイギリスと協力し、ドイツと戦いました。これを率いていた一人が、後にモサドの初代長官となるルーヴェン・シロアッフになります。ところが戦争終結と同時に、ユダヤ人の矛先はイギリスに向うわけです。「5」 in Palestine_e0173454_2363629.jpg 
 このテロは苛烈なもので、イギリスのパレスチナ高等弁務官、ハロルド・マクマイケルや、チャーチルの友人で現役閣僚でもあったモイン卿までもがこのシオニスト運動の犠牲となります。そして極めつけは1946年7月22日、イギリスの委任統治政府が多数入居していたキング・ダビデ・ホテルがイルグンによって爆破され、100名を超える死傷者を出したことでした。このテロはイギリス政府に衝撃を与え、翌年、アーネスト・べビン英外相はパレスチナからの撤退を決定します。この撤退が1948年5月のイスラエル独立に繋がるわけです。
 この経過だけを見ていますと、「一体MI5は何をやっていたんだ」、という批判が生じるのは当然です。そこで近年の資料公開によって、この時期のMI5の活動記録が公となったのであります。ウォルトン博士は論文の中で「5」の対シオニズム活動の詳細を丹念に追いつつ、「5」は第二次大戦中には対独活動で目覚しい活躍を収め、その後は「長期的な敵」となる対ソ活動に軸足を移しつつあったが、目の前のテロリズムに対しては警戒不足であったと結論付けています。
 これは限られた資源をどのように振り分けるかの問題でありまして、シンガポール陥落の項でも触れましたが、この世界では敵の優先順位を付けるのが大変困難だと言えます。ウォルトン博士は同時期のアフリカ、極東でのMI5の活動についても研究成果がありますから、大戦で疲弊したイギリスにとって、世界大に広がった帝国の保安活動というのは並大抵のことではなかった、という話になるのでしょうか。
 博士によると、パレスチナでの失態の事例は、現在の「5」が抱えている問題と通じるところがあるとのことです。やはりここはイギリス人らしく、「歴史に学べ」ということなのでしょう。
# by chatnoir009 | 2009-04-07 22:53 | インテリジェンス

Operation Glencoe

 結局、今回の抗議活動には4万人以上が集まったそうですが、スコットランド・ヤードは5000人の警官を動員してこれを封じ込めたようです。メディアによりますと、逮捕者は122名にも上っているとのことでした。今回、スコットランド・ヤードはこのバンダリズム対策として、「グレンコー作戦」なるものを発動したそうです。グレンコー事件は17世紀にスコットランドで起こった、イギリスでは有名な虐殺事件ですから、当局的には「殲滅作戦」と意気込みたかったでしょう。ただ個人的に虐殺事件を作戦名に使うヤードのセンスもいかがなものかとも思うわけであります。殲滅戦であれば、「カンネー」とか「タンネンベルク」とかいくらでもあったでしょうに(個人的には「ルウム作戦」ですね)。
 こういった作戦名は意外と担当者の思いつきで決まるらしく、例えば1960年代にアメリカが世界初の偵察衛星を打ち上げミッションは「コロナ計画」ですが、これは担当者の使っていたタイプライターの名前から取ったそうです。夜通しで計画案を作っていて疲れ果てていたスタッフが、最後に計画名を決めなければならないことに気づき、たまたま目の前に「コロナ」とあったので、「まぁこれでいいか」と命名した逸話があるらしいです。
 恐らく今回の作戦にはMI5も確実に絡んでいるでしょうが、今回は全くといっていいほど報道には出てきませんでした(当然といえば当然でしょうが)。ただテレビを見ていますと、抗議デモの中に「7/7 - MI5 did it!」という標識が目に入りました。これは恐らく2005年7月7日のロンドン同時多発テロが、MI5の陰謀であったと言いたいのでしょう。恐らくその可能性は限りなく低いとは思いますが、発想は面白いものです。
 話は全く変わりますが、今期からの「ファントム」は期待大ですね。
# by chatnoir009 | 2009-04-03 07:16 | その他

G20

 明日からロンドンで開催されるG20サミットのため、オバマ大統領をはじめとする各国のVIPがぞくぞくとロンドン入りしてきました。私のオフィスの斜め向かいにある、首相官邸も朝からてんやわんやの騒ぎとなっていたようです。ロンドンでは朝から英米、米ロ、日韓の首脳会談などが開かれており、どれも注目すべきものであります。
 しかしイギリスのマスコミの注目は、むしろG20に反対して集まってきた反グローバリゼーションを訴える抗議デモにあったような気がします。当局の発表だと3万人以上がロンドン市内で抗議デモを行い、既に20人を超える逮捕者を出しているそうです。実際に現地で取材された方から話を聞きましたが、スコットランド・ヤードはこの手の対応には慣れっこだそうで、うまく道路を封鎖、寸断しながらデモ隊を一定の場所に集めていくのだそうです。従ってテレビなどで放映されている「暴れる群衆」のシーンは、既に袋小路に追い込んだ後の話で、あの場には警官とデモ隊しかいないということです。とはいうものの、標的になりそうな外資系企業や高級店は、窓ガラスなどを割られないように板などで厳重に守りを固めていました。私はたまたま高級ホテル、リッツの前を通りがかりましたが、やはりいつもの華麗なショーウィンドーには木の板がはめられ、かなり不恰好でした。さて、G20サミットでは各国の足並みはうまく揃うのでしょうか。
G20_e0173454_7282885.jpg

# by chatnoir009 | 2009-04-02 07:29 | その他
 先月の話になってしまいましたが、GRIPSの北岡元教授が第4作目となる単著、『ビジネス・インテリジェンス』を出版されました。昨年、色々なところで北岡教授のインテリジェンス講座を拝聴していて、「面白い!これは本にして広く読んでもらうべきだ」と常々思っておりましたので、今回の出版で見事その期待に応えて頂いた形となりました。
 本書のタイトルは「ビジネス・インテリジェンス」ですが、その中身はむしろCI(競合インテリジェンス)にあります。本書はCIの代表的研究者、レオナルド・ファルド、ベン・ギラッド氏が運営する、ACI(CIの教育機関)での講座内容を下敷きとして執筆されているようです。ACIに参加しようとすると、恐ろしく費用がかかるそうですので、今回の著作はたった1800円でCIのエッセンスを日本語で読むことができるわけで、大変お値打ちの書ではないかと思います。
 さてそもそもCIとは何か、という話なのですが、簡単に言えば「ビジネスのためのインテリジェンス」ということになります。CIは元々、CIAなど政府のインテリジェンス機関のために働いていた人たちが、ビジネス業界に持ち込んだインテリジェンスの手法であります。そのため本書は基本的に企業家向けの書となっているわけですが、「インテリジェンスは自分の利益(目的)の自覚が不可欠である」、「敵よりもむしろ己を知るべき」といった考え方は、本来のインテリジェンスに通じるものであると思います。
 北岡教授は、今までのインテリジェンスが敵を知ることに労力をかけすぎ、むしろ己を知ることに無頓着であったと説いています。よってCIとは、産業スパイなどを使ってライバル業者の情報を取ってくるようなものではなく、むしろ自社の置かれている状況を的確に分析・判断し、それをどのようにすればよいかの指針とするわけです。こういった問題意識に立てば、なぜ本書が長々とファイブフォース分析やフォーコーナー分析、またシナリオ作成やトリップ・ワイアといった考え方について説明しているのかが理解できます。すべては業界における自分の立ち位置を知るためのツールなのです。ビジネス・インテリジェンス_e0173454_1392488.jpg
 分析手法が難解だと感じても、様々な企業の実例も豊富に紹介されていますので、結構楽しく読むことが出来ます。例えばなぜポラロイド社が破綻したのか-それはポラロイド社が21世紀のデジタル化の流れを十分に察知せず、それに対して手を打たなかったからだ-という話などは、古今東西の情報の失敗にも通じる話だといえますので、ちょっと変わった角度からインテリジェンスというものを見つめ直すには、大変良い機会だと思います。
# by chatnoir009 | 2009-04-01 01:40 | 書評

ヨーク公

 本日はヨーク公(チャールズ皇太子の弟君。王位継承順位は4位なのだそうです。)がRUSIの視察に来られたため、てんやわんやでした。ヨーク公は王室の伝統に則って海軍士官を勤められ、1982年のフォークランド紛争にまで参加された軍人(今は退官されていますが)ですので、国防省、王室との繋がりのあるRUSIに立ち寄られたわけですが、こうなると我々スタッフとしては対応が大変なわけであります。
 視察の最後にヨーク公はホールに並んだスタッフ全員と握手の上、一人一人に何をしているのかお聞きになられたのですが、私はしどろもどろしながら答えるのが精一杯でした。いつもながら、「もっと英語が流暢に話せたらなぁ…」と思うのですが、私の場合は思うだけなのでいつまでたっても上達しません。ヨーク公_e0173454_1654.jpg
 さすがに公は元海軍士官ですから堂々としたもので、現在のアフガニスタン、イラクにおける混乱をどのように収束させるのかについて、大変なご興味を持たれているようでした。ヨーク公のお話し振りからすると、これらの問題にRUSIが何らかの知恵を出すことを期待されているようです。一方、靴フェチの私としては、ヨーク公の靴がジョン・ロブなのか、はたまたチャーチーズなのか、公爵の足元を拝見していると、そんな不敬なことが知らず知らずのうちに頭をよぎっていました(笑)。
# by chatnoir009 | 2009-04-01 01:07 | その他