日本インテリジェンス史
2022年 08月 23日
今週、『日本インテリジェンス史 』が出版されました。本書「あとがき」にも記しましたように、本書の構想を中公新書編集部の上林さんと練ったのは、2013年ですので、何と9年もの難産でした。もちろん9年間ひたすら構想を練っていたというわけではなく、その間に他の出版社さんからも書籍を出版していましたので、その度に、上林さんから「早くうちでも書いてください」と催促され続けていたというのが現実です。さらに現場の資料収集となると、これも本書で触れましたが、2006年にPHP総研の「日本のインテリジェンス体制」提言書を書く際に、各省庁の実務家や政治家の先生方から聞き取り調査を行ったのがきっかけですので、実質的な調査は2005年ぐらいから開始していました。その後も折を見ては現場の方々との意見交換を行いまして、かなりの数の聞き取りデータが蓄積されました。そこで本書を書き始めようとしたところ、今度は米国MITのリチャード・サミュエルズ教授から、日本のインテリジェンスの通史を描いたSpecialDutyの翻訳を頼まれまして、しばらくは翻訳に没頭することになってしまいました。ただそのお陰で、改めて勉強になりましたし、サミュエルズ教授の問題意識も知ることができましたので、差別化を図ることもできたのだと思います。
本書では、戦後日本のインテリジェンス・コミュニティーが内閣情報調査室とそれを率いる警察官僚を中心に運営されてきた点を強調したかったのと、戦後の曖昧なインテリジェンスにまつわる逸話を整理して、それを読者に提示したかったのです。前者についてはそれなりに達成できたのですが、後者はよくわからない話が膨大にありまして、裏の取れない話も多く苦労しました。特に内調設置の経緯や、冷戦期に日本国内で暴れまわった露華鮮のスパイ事案には頭を抱えたのですが、意外と海外の研究者や元実務家の方から話を伺うことができまして、何とかなった次第です。今後は、戦後日本のインテリジェンスにまつわる一次資料を収集してデジタル化する、という方向で考えています。
本書を紐解く際に注目していただきたい点は、初期の内調の活動、スパイ事案、戦後の通信傍受活動、第二次安倍政権のインテリジェンス改革の話でしょうか。特に別室→調別→電波部と受け継がれてきた防衛省・自衛隊の通信傍受活動は秘中の秘でありましたので、この辺の話をある程度明らかにできたのは大きかったのではないかと思います。世間的には同じ陸幕二部でも、別室より別班の方が秘匿度が高い、という話も出回っていますが、やはり個人的にはどの国のインテリジェンス・コミュニティーであれ、通信傍受が最も秘匿されるべき分野であり、しかもそれが現在進行形の話であるという点で、別室の方がより秘密の組織ではないかと思います。また第二次安倍政権におけるインテリジェンス改革はとても意味合いが大きく、恐らくこの時代に、10年分以上の改革が断行されたように思います。安全保障やインテリジェンスの分野で、これほどの改革を成し得た政権は、かつてなかったという印象です(本書帯の政治家の写真は、日本のインテリジェンス改革に功績のあった、吉田茂氏、後藤田正晴氏、町村信孝氏、安倍晋三氏を使わせていただきました。KGBのスタニスラフ・レフチェンコ氏は中公編集部チョイスです)。