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ホワイトホール61番地 ~ インテリジェンスを学ぶ

「めちょっく」or「キラやば~☆」?

インテリジェンス研究とは

 最近、とある魔術の大学院生の方から、「国際政治学や外交史とインテリジェンス研究はどう違うのでしょうか」と質問を投げかけられ、少し考えた次第であります。確かに私自身も外交文書や政治家の個人文書を読みながら「情報史」を書いておりまして、そこはあまり深く考えずにやっておりました。これまでは情報機関の文書を調べて、それを従来の外交史にはめ込んでいる、という程度の認識でありました。この点について中西輝政教授は、「情報史とは、情報史・資料を主要な根拠として歴史の過程(多くは国際関係の歴史)を明らかにしようとする研究である」と定義されており、これはまさにその通りだと思います(中西輝政/小谷賢編著『インテリジェンスの20世紀』11頁)。
 ただ難しいのは、情報機関の資料は簡単には公開されないということです。特に通信傍受の記録は秘中の秘とされており、1917年のツインメルマン事件(イギリス情報部がドイツの暗号を解読し、アメリカ政府に提供した事件。これによってアメリカは第一次世界大戦に参戦した)の記録が公開されたのは何と2005年になってからでありまして、30年が目安とされている外交文書と比べると非公開の時期が大変長いわけであります。そうなるとインテリジェンス史家は、外交文書や政治家の個人文書などから、インテリジェンスに関わる断片資料を血眼になって集める必要性があります。そのように手法によって1985年、ケンブリッジ大学のクリストファー・アンドリュー教授が、Secret ServiceというMI6の歴史を、MI6の資料を使わずに描かれたことはインパクトが大きかったわけであります(しかも619頁!)。このような研究の登場によって、英政府も徐々に考えを変え、最終的に情報機関の公文書公開に踏み切る決断に傾いていきます。
 ですので政府に対して「情報を公開せよ!」と迫ることも大事ですが、アンドリュー教授のように政府が保管しているはずの情報の外堀をすべて埋めてしまうと、秘密にしている意味合いが薄れてしまいます。イギリスではこれを「歴史の失われた断片」と呼びまして、ちょうどパズルを組み立てていって、最後の足りない1ピースがインテリジェンスの資料にあたるということです。私も微力ながら研究仲間と一緒になって、1941年にイギリスの情報機関が在英日本大使館の電話を盗聴していたはずだと、色々な資料を使って論じてきました。その結果かどうかはわかりませんが、英政府は2013年になってようやく大使館の盗聴記録を公開するに至ったわけであります。
 話が横道にそれましたが、実際問題、情報機関の資料のみを使用して情報史を描くのは極めて困難なわけであります。正直、資料の何割かが情報関係資料なら良い方かと。そこで最初の問いかけに戻るのですが、むしろインテリジェンス研究はその対象についてもう少し考慮する必要があるかと思います。これまでの経験上、インテリジェンス研究の多くは、情報組織の情報収集、分析、情報の活用、情報組織論等々を扱っております。これを一言で無理やり纏めるならば、インテリジェンス研究とは「インテリジェンス(情報)」を中心に据えて、それを取り巻く国際関係や外交、政策決定を論じていくものであると。これはつまり、政治学が「権力」、経済学が「貨幣」、外交史が「国益」というものを研究の中心的なテーマに据えているのと同じく、インテリジェンス研究は「情報」(サイバー分野なら「データ」)というものを中心テーマに据える、といった考え方で良いように思います。

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by chatnoir009 | 2018-12-21 21:00 | インテリジェンス | Trackback | Comments(0)
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