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情報機関に求められる資質

 報道によりますと、ISILでの邦人誘拐事件を受け、自民党内で対外情報機関設置の議論が始まったようです。今回は具体的な組織論はさておき、対外情報機関に必要な人材について少し考えてみます。ここで情報機関の任務といえば、情報の収集と分析になるでしょう。
 情報を取る任務に就くのであれば、外国語はもちろん、高いコミュニケーション能力が求められます。例えば大使館のパーティーなどに出向き、初対面の外国人と積極的にかつ長く話せるかどうかが重要です。長く話すのは、できるだけ会話の端々から断片的な情報を集めるためです。長く話すためには語学力はもとより、ウィットに富んだ言い回しや会話の引き出しの多さが必要になってくると思われます。欧米でも情報を取ってくるオフィサーはいわゆる「コミュ力」を徹底的に鍛えられ、魅力的な人物として振舞うことを強いられます。ジェームズ・ボンドが簡単に女性を口説けるのは、ある意味正確な描写かもしれません。日露戦争時、日本に貴重な情報を送り続けた明石元次郎陸軍大将は、まさにこの種の典型で、語学力を駆使して各国大使館のパーティーで情報を集め続けたそうです。ただこういった人材を集めるのは、現行の制度では難しいでしょう。
 片や情報を分析する部門であれば、学究肌の人材が求められることになります。こちらも語学ができることが最低条件ですが、一日中、外国の新聞やテレビをひたすら観続け、報道のトーンに僅かな変化がないか見極めたり、テレビに登場する外国人の訛りから出身地を限定できるような能力が必要になりますが、こちらもなかなか一般の公務員試験では得難い才能ではないでしょうか。
 ただ個人的に一番大事だと思える資質は、確固とした国家観だと思います。これがないと、自分のやっている任務に疑問を感じたり、金銭目的で機密を相手国に漏洩してしまうということが生じてしまうわけです。そして一旦相手側に籠絡されてしまうと、あとは悲惨な結末が待っています。大抵はスパイ罪で逮捕、もしくは相手国に亡命、最悪の場合は殺害といったところでしょうか。
 情報機関に求められる資質_e0173454_23285638.pngこの手の話で思い出したのが、最近読んだ『日本国最後の帰還兵 深谷義治とその家族』です。深谷氏は日中戦争中、陸軍憲兵隊員として中国に渡ります。そして戦後も中国で調査活動を続け、それが基で1958年に中国公安部に逮捕され、それ以降、20年近くも中国当局の洗脳、拷問を繰り返し受けることになります。中国側は深谷氏に日本軍のスパイであった事実を認めさせようとするのですが、氏は国への忠誠心だけを頼りに、中国側の要求を頑として認めようとしません。いつ終わるともわからない尋問や拷問を受け続ければ、普通の人間なら発狂しそうですが、氏は何とかそれに耐え抜き、1978年に特赦を受けて帰国されました。残念ながら今でもスパイの世界ではまだこのようなことが行われており、日本が対外情報機関を設置するということは、この世界に足を踏み入れるということになります。そうなるとこのような世界で生き抜けるほどのタフな人材をどうやって集めて訓練していくのか、という問題に突き当たってしまうわけです。
 戦後の日本は平和ボケしてしまったと指摘するのは簡単なのですが、では実際問題、日本人がISILなどの過酷な現実と向き合うためにはどうすれば良いのか、真剣に考えないといけません。上記の自民党の検討会でもそういったことも含めて議論されれば良いかと思います。
by chatnoir009 | 2015-02-15 23:29 | インテリジェンス