対外インテリジェンスをどう強化していくのか
2015年 02月 05日
ISILによる邦人誘拐事件は大変痛ましい結果となってしまいました。思い返せば、2013年1月にもアルジェリアで邦人10名がテロの犠牲となり、その際にも色々な対策が打ち出されました。当時、政府検証委員は「在アルジェリア邦人に対するテロ事件の対応に関する検証委員会検証報告書」を作成し、現地での情報収集の不備を認め、外交官や防衛駐在官、また警察アタッシェによる情報収集の強化を謳っています。しかし残念ながらまた新たな事件が生じてしまったわけです。
今回も問題になった点の一つは、現地からの情報不足にあるといって良いでしょう。原則論から言えば、外務省は国家間の外交を行う組織であり、イスラム国のような国家でない組織との関係は想定していないし、そこに入っていくことも難しい。警察は国内での犯罪捜査が主務であり、基本的には事件が起こらないと動けない。公安の秩序を維持するという名目で平時の活動も可能ではありますが、それは国内での話であって、やはり海外では自由に動けません。そう考えると対外情報機関は、平時から海外で活動できる上、相手とのバックチャンネルを構築することにも長けているわけです。また対外情報機関であれば、各国の対外情報機関と情報を共有することもできます。
日本にも対外情報機関があればある程度の現地情報を集めることは可能ですが、情報機関を立ち上げ、世界中に情報要員を送ったとしてもいきなりは機能しません。恐らく10年単位の時間が必要になるでしょうし、今後、国内での議論も行われる必要があります。また組織の人員と予算をどれぐらいの規模にするかの問題もあります。2013年5月の『中央公論』の中で、自民、民主、みんなの党の超党派の議員が、日本貿易振興機構(JETRO、職員1553人、予算258億円)、独立行政法人国際協力機構(JICA、1827人、2037億円)と比較しながら、人員500名、予算200億円ぐらいで新たな組織を立ち上げることを提言しています。規模的にはこれぐらいから始めるのが妥当かもしれませんが、果たして500人ものスタッフをどこから集め、予算を付けるのか、というのは現実問題として相当ハードルが高い印象です。ただ全く策がないわけでもありません。
恐らく今後、この種の議論で焦点となってくるのは、公安調査庁のあり方でしょう。公安調査庁は1500人もの職員を抱える、調査活動に特化した組織です。現在、公安調査庁の情報収集の対象は国内のみならず、外国も含まれています。同庁が発行する『内外情勢の回顧と展望』によりますと、その調査地域は朝鮮半島、中国、ロシアが中心ですが、中東・アフリカ地域や国際テロについても情報を収集しているようです。ただし公安調査庁は破防法に縛られているため、同法に触れそうな団体に対する調査権限しか持たないのが現状です。しかしオウム事件以降、国内に破防法を適用すべき団体などあまり見当たりませんので、個人的には公安庁から破防法の縛りを外し、平時から海外でも情報収集活動を行えるようにした方が有効ではないかと考えます。
もう一点検討すべきは、米国のNSAのように、外国勢力の通信を傍受するような活動でしょうか。現状、海外で邦人がテロや誘拐にあった場合、まずは外務省による現地情報の収集や公開情報の収集、衛星による画像情報の収集などが思いつきます。しかしよくよく考えてみますと、ここには決定的に欠けているものが一つあります。そう、よく刑事ドラマで誘拐事件が起きると、警察が必ず行う電話の逆探の類による情報収集です。逆探がどれぐらい有効なのかはよくわかりませんが、やらないよりもやった方がマシだと考えます。最近ではテロリストが発する携帯の電波を収集し、ビッグデータ的に分析することで、根拠地などを特定するようなやり方も編み出されています。今後、日本国外でテロ容疑者の通信を傍受する活動ついてはそろそろ真剣に議論する時ではないでしょうか。
ただ外国で日本政府の組織が通信傍受を行おうとすれば、幾つか法的なハードルがあります。警察の行う司法傍受は、日本国内での犯罪事件を念頭においており、その手続きも厳格であります。外国で通信傍受を行う場合、国内よりもハードルは低そうなのですが、法執行機関である警察は事件が起こってからしか対応できないため、平時の通信傍受は基本的に行えません。片や防衛省・自衛隊は平時から外国の電波通信を傍受していますが、これは「日本周辺の平和と安全保障のため」という確固とした目的があります。そうなると中東という地域ではこれまた難しいという現状があります。またNSAのようにネットから不特定多数の個人情報を集めようとすると、不正アクセス禁止法などに引っかかりますし、情報窃取にも問われてしまいます。ですのでとりあえずできるかどうかだけでも、法的な議論を進めていく必要があるかと思います。
その他にも公開情報を継続的かつ徹底的に分析するような作業も必要不可欠なのですが、これら情報収集強化の対策は、危機管理のための基盤を整備する程度のことですので、また今回のような誘拐事件が起きた場合、速やかに解決できるようになるということではありません。特に日本が中東やアフリカ地域で情報を収集するのは困難でしょう。またISILばかりを気にしても、他の地域でテロが起きる可能性もありますので、対ISILの情報収集に特化してしまうというのも好ましくありません。
重要なのは、日本が日頃から集められる情報を集めておき、いざという時には中東地域に強い外国の情報機関、今回の件でいえばイスラエルやトルコなどと情報交換を行えるような体制作りを整えておくことではないでしょうか。これらの国々の情報機関は情報収集のみならず、テロリストとの交渉役や人質の受け取り役も担ってきた実績があります。ただし彼らはタダで情報をくれるわけではありませんし、インテリジェンスの世界では金と情報の交換というのもあまり聞きません。基本的にこの世界は情報と情報の交換が基本ですので、日本も日頃から出せる情報を貯えておく必要があるわけです。いずれにしましてもテロとの戦いは世界中の国々が直面している問題ですので、各国の情報機関の間での情報共有が望まれているのだと思います。
今回も問題になった点の一つは、現地からの情報不足にあるといって良いでしょう。原則論から言えば、外務省は国家間の外交を行う組織であり、イスラム国のような国家でない組織との関係は想定していないし、そこに入っていくことも難しい。警察は国内での犯罪捜査が主務であり、基本的には事件が起こらないと動けない。公安の秩序を維持するという名目で平時の活動も可能ではありますが、それは国内での話であって、やはり海外では自由に動けません。そう考えると対外情報機関は、平時から海外で活動できる上、相手とのバックチャンネルを構築することにも長けているわけです。また対外情報機関であれば、各国の対外情報機関と情報を共有することもできます。
日本にも対外情報機関があればある程度の現地情報を集めることは可能ですが、情報機関を立ち上げ、世界中に情報要員を送ったとしてもいきなりは機能しません。恐らく10年単位の時間が必要になるでしょうし、今後、国内での議論も行われる必要があります。また組織の人員と予算をどれぐらいの規模にするかの問題もあります。2013年5月の『中央公論』の中で、自民、民主、みんなの党の超党派の議員が、日本貿易振興機構(JETRO、職員1553人、予算258億円)、独立行政法人国際協力機構(JICA、1827人、2037億円)と比較しながら、人員500名、予算200億円ぐらいで新たな組織を立ち上げることを提言しています。規模的にはこれぐらいから始めるのが妥当かもしれませんが、果たして500人ものスタッフをどこから集め、予算を付けるのか、というのは現実問題として相当ハードルが高い印象です。ただ全く策がないわけでもありません。
恐らく今後、この種の議論で焦点となってくるのは、公安調査庁のあり方でしょう。公安調査庁は1500人もの職員を抱える、調査活動に特化した組織です。現在、公安調査庁の情報収集の対象は国内のみならず、外国も含まれています。同庁が発行する『内外情勢の回顧と展望』によりますと、その調査地域は朝鮮半島、中国、ロシアが中心ですが、中東・アフリカ地域や国際テロについても情報を収集しているようです。ただし公安調査庁は破防法に縛られているため、同法に触れそうな団体に対する調査権限しか持たないのが現状です。しかしオウム事件以降、国内に破防法を適用すべき団体などあまり見当たりませんので、個人的には公安庁から破防法の縛りを外し、平時から海外でも情報収集活動を行えるようにした方が有効ではないかと考えます。
もう一点検討すべきは、米国のNSAのように、外国勢力の通信を傍受するような活動でしょうか。現状、海外で邦人がテロや誘拐にあった場合、まずは外務省による現地情報の収集や公開情報の収集、衛星による画像情報の収集などが思いつきます。しかしよくよく考えてみますと、ここには決定的に欠けているものが一つあります。そう、よく刑事ドラマで誘拐事件が起きると、警察が必ず行う電話の逆探の類による情報収集です。逆探がどれぐらい有効なのかはよくわかりませんが、やらないよりもやった方がマシだと考えます。最近ではテロリストが発する携帯の電波を収集し、ビッグデータ的に分析することで、根拠地などを特定するようなやり方も編み出されています。今後、日本国外でテロ容疑者の通信を傍受する活動ついてはそろそろ真剣に議論する時ではないでしょうか。
ただ外国で日本政府の組織が通信傍受を行おうとすれば、幾つか法的なハードルがあります。警察の行う司法傍受は、日本国内での犯罪事件を念頭においており、その手続きも厳格であります。外国で通信傍受を行う場合、国内よりもハードルは低そうなのですが、法執行機関である警察は事件が起こってからしか対応できないため、平時の通信傍受は基本的に行えません。片や防衛省・自衛隊は平時から外国の電波通信を傍受していますが、これは「日本周辺の平和と安全保障のため」という確固とした目的があります。そうなると中東という地域ではこれまた難しいという現状があります。またNSAのようにネットから不特定多数の個人情報を集めようとすると、不正アクセス禁止法などに引っかかりますし、情報窃取にも問われてしまいます。ですのでとりあえずできるかどうかだけでも、法的な議論を進めていく必要があるかと思います。
その他にも公開情報を継続的かつ徹底的に分析するような作業も必要不可欠なのですが、これら情報収集強化の対策は、危機管理のための基盤を整備する程度のことですので、また今回のような誘拐事件が起きた場合、速やかに解決できるようになるということではありません。特に日本が中東やアフリカ地域で情報を収集するのは困難でしょう。またISILばかりを気にしても、他の地域でテロが起きる可能性もありますので、対ISILの情報収集に特化してしまうというのも好ましくありません。
重要なのは、日本が日頃から集められる情報を集めておき、いざという時には中東地域に強い外国の情報機関、今回の件でいえばイスラエルやトルコなどと情報交換を行えるような体制作りを整えておくことではないでしょうか。これらの国々の情報機関は情報収集のみならず、テロリストとの交渉役や人質の受け取り役も担ってきた実績があります。ただし彼らはタダで情報をくれるわけではありませんし、インテリジェンスの世界では金と情報の交換というのもあまり聞きません。基本的にこの世界は情報と情報の交換が基本ですので、日本も日頃から出せる情報を貯えておく必要があるわけです。いずれにしましてもテロとの戦いは世界中の国々が直面している問題ですので、各国の情報機関の間での情報共有が望まれているのだと思います。
by chatnoir009
| 2015-02-05 22:57
| インテリジェンス