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「魔法は探し求めている時が一番楽しい」


by chatnoir009
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The Official History of the Joint Intelligence Committee

 The Official History of the Joint Intelligence Committee_e0173454_2310959.png先月、ロンドンの書店で、待望の合同情報会議(JIC)のオフィシャル・ヒストリーを見つけて購入し、ぱらぱらと読み続けておりました。JICとはイギリスのインテリジェンスの要であり、007の秘密情報部(MI6)やスノーデン事件で注目された政府暗号本部(GCHQ)からの情報を取りまとめて評価し、政府首脳に報告する組織です。2009年から保安部(MI5)、MI6と政府のインテリジェンス・ヒストリーが順番に出版されてきましたが、本書はその集大成となるものです。
「いつ出るの?」、「もうすぐ」と著者のMike Goodman博士との禅問答を繰り返すこと5年近く、もはや「出る出る」詐欺かと諦めかけていた所でしたので、書店で見るや否や飛びついた次第です。ただし後述しますようにこれは「第一巻」です。

 本書は1936年にJICが設置されてから、1956年のスエズ危機までの時期を扱っています。大まかな歴史の流れとしては、ドイツの再軍備による軍事的脅威を評価する必要性に迫られていた英政府が、それまでばらばらに情報活動を行っていた陸海空軍、外務省、秘密情報部を統合することに端を発します。この時、内閣官房長官(事務)のモーリス・ハンキーが辣腕をふるい、緩やかに統合された情報組織であるJICを誕生させることになります。JICの当初の目的はドイツの脅威を評価するため、つまりは軍事情報の分析が第一だったのですが、各軍間の対立を引き起こさないように、議長に外務省の高官を持ってきたのは流石の慧眼だったといえます。その後、第二次世界大戦が始まると、JICはイギリスのインテリジェンスの元締めとして、情報を取り纏めて評価し、それを統合参謀本部やチャーチル首相に届け続けることになります。本書では大戦中のJICの成功は、イギリスの勝利の要因となったとの評価です。
 ところが上手く行き過ぎた成功がその後の問題を引き起こす、というのは古今東西に共通しているようで、JICも例外ではありませんでした。JICはその創設時から、「ドイツ軍の戦術的な軍事動向」を分析することを得意としたのですが、第二次大戦後、ソ連が新たな敵として出現すると、JICはソ連の外交や戦略的意図を評価する必要性に迫られます。しかしJICにはそれまで同盟国だったソ連を分析する専門家もおらず、また政治・外交的な情報評価も苦手であったため、かなり苦戦することになります。
 さらに追い打ちをかけたのがスエズ危機でして、この時はアメリカ、ソ連、イスラエル、フランスの出方を多角的にかつ戦略的に分析する必要があったのですが、JICはこれに対応し切れませんでした。こうしてスエズ危機を契機として、JICは参謀本部から内閣府に移され、イギリス政府のために政治、外交、軍事の側面から情報分析を行う組織に生まれ変わることになります。
 ただしJICの任務は今も昔もそう変わっておらず、極言すれば、①政府内の各情報部局の取り纏め(本書内では「オーケストラの指揮者」とも)、②政府高官や軍司令官の情報ニーズの把握、③情報評価書の作成、になります。今となっては②の所はNSCで取り纏められていますので、最近のJICの任務はより③に力点が置かれるようになったということでしょうか。本書を通読すれば、国の戦略の必要上設置されたJICが大戦を勝利に導き、その後、スエズ危機で行き詰る過程がよく描かれているといえます。
 The Official History of the Joint Intelligence Committee_e0173454_23111527.pngちょうど同じ書店で、Spying on the WorldというJICの資料集も見つけました。こちらも出版されたところのようで、編者はGoodman博士やその師、Richard Aldrich教授らになっています。出版社は別ですが、恐らくJICのオフィシャルに合わせて発売したのでしょう。こちらはJICの情報評価書の一次資料を纏めたものです。例えば、第二次大戦中の対独評価や、朝鮮戦争の際に中共軍が参戦してくる可能性、スエズ危機やフォークランド紛争直前のJICの評価がどのようなものだったのかが、部内の原資料が要領よく纏めてあります。ですのでオフィシャルと二冊揃えておけば、JICの本質によく迫れるのではないかと思います。

 ところで、MI5やMI6のオフィシャル・ヒストリーが、スパイをめぐるエキサイティングな内容だったのに対し、本書はイギリス政府におけるJICの位置づけやその時々の情報評価など、地味な内容となっています。そのためイギリスのマスコミでもあまり話題とならなかったようですし、またそれを受ける日本側ではほとんど全く知られていないような印象です。しかしJICの情報評価が英軍や政府の判断に直結していた以上、こちらの方がより当時の政府の内情を浮かび上がらせ、政治史や軍事史を研究する上でとても重要なものではないかと考えます。
 ところでまたGoodman博士に、「第二巻はいつ出る予定で、時代はどこまでを扱うんでしょう?」と懲りずに聞いてみた所、「多分3、4年後、時代は1991年まで」との回答でした。MI6の歴史が1947年までしか描かれなかったことを考えますと、冷戦終結までカバーされるのはとても待ち遠しいですが、「多分」ということはまた相当延びることになるのでしょうか。。。
 
by chatnoir009 | 2014-09-21 23:17 | 書評