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ホワイトホール61番地 ~ インテリジェンスを学ぶ

「めちょっく」or「キラやば~☆」?

戦略的思考(その2)

 太平洋戦争時に首相(兼陸相・参謀総長)だった東条英機は、朝早く一般の家庭ごみを自ら見て回り、国民が食べるに困っていないか確認しようとしていたと言います。これは首相が国民生活に配慮していたという意味では美談でありますが、戦争中の国の指導者がこれではいかがなものかと思います。そんな時間があるのなら、少しでも戦争に勝つ工夫を考えた方が合理的です。これは東条に限らず、日本の組織人はとにかく現場主義でトップまで上り詰めますから、いざ自分がトップになっても組織のマネージメントや戦略的思考ができるわけでもなく、現場に拘り続けてしまうのです。
 語弊を恐れずに言えば、多くの日本人は戦略的思考に関する教育や訓練を受けず、せいぜい仕事の合間に覚えようとするぐらいですが、働きながらではなかなか身に付きません。欧米などでは、将来の幹部候補である40代のビジネスマンが数か月会社を休み、名門大学のビジネススクールで学ぶことがあります。聞いた話ですと、クラスで読む文献はクラウゼヴィッツや孫子などもあるとのことで、ビジネス書などの所謂「ハウ・トゥー本」などは一切読まないとのことでした。こういった難解な本はなかなか仕事の合間に自主的には読めないので、時間のある時に強制的に読むのが良いそうです。つまり古今東西の古典から、将来組織をしょって立つ人材が戦略眼や組織マネージメントを学ぶということなのでしょう。まぁ我が国でも2008年から東大が社会人向けのエグゼブティブ・マネジメント・プログラム(EMP)を始めていますので、環境は整ってきてはいるとは思います。
 
 さて肝心の戦略ですが、著名な戦略思想家、J.C.ワイリーの定義を借りますと、「何かしらの目的を達成するための一つの「行動計画」であり、その目標を達成するために手段が組み合わさったシステムと一体となった、一つの「ねらい」である」とあります。つまり「ねらい」とそこに至る「計画」、「手段」を考えましょうということになるのでしょうか。例えば太平洋戦争前、日本軍が描いた戦略は、「南方資源獲得のため、武力によって蘭印(ジャワ島)まで進出する」というものでした。これは一応戦略といえますが、問題はその後のことを全く考えていなかったということになります。その結果、ガダルカナル島まで中途半端に戦線を拡大し、米軍が反攻してきた場合どうするのか、といった観点も全く抜け落ちていました。
 そもそも古今東西、戦争など予定通りにいくはずもなく、常に予想外の出来事が生じます。これがクラウゼヴィッツの言うところの「摩擦」でありまして、戦争においては常に摩擦を意識し、その都度戦略を調整していく必要性が生じます。つまり戦略とは一度立てれば良いというものではなく、状況に応じて常に更新していく必要性があるわけですが、日本の場合は一旦戦略を立ててしまうとそれを金科玉条としてしまいますので、なかなか修正がし難いです。戦後の吉田ドクトリン、「軽武装(平和主義)・経済重視」もある意味戦略と言えるでしょうが、一旦これが身に染みついてしまいますとやはり修正は困難です。つまりは戦略を考える際には、柔軟性が必要だということでしょうか。
 国の戦略を考えるには、まず国益が何であるかを突き詰めて考え、そこから「ねらい」や「計画」を弾き出すわけでありますが、現実的にはそれほど選択肢があるわけではありません。東アジア情勢を国際関係学的な観点から言えば、「バランス・オブ・パワー」による国際情勢の安定が第一であります。日本は長らく圧倒的な米軍のプレゼンスの上に乗っかって「軽武装・経済重視」でやってきましたが、中国の勃興によってここ10年ほどは、「中国・北朝鮮vs日米韓」というバランスが成立しています。そして中国の国力増大、日韓関係の疎遠によって、バランスは中国側優位に傾いているのが現状です。
 現在の政権は、ロシアやインド、オーストラリアとの連携を強めることで再びバランスを取ろうとしていますが、バランス・オブ・パワーの構図が過度に複雑になるのもあまり好ましくありません。これはビスマルク後のドイツの失敗を見れば明らかでしょう。それにロシアに近づくことは、アメリカとの関係をより悪化させることにもなります。アメリカの方針は、少なくとも2015年12月に米軍が朝鮮半島から撤退するまではバランスを保ちたい、というところでしょうから、日韓関係の更なる悪化によって「中国・北朝鮮vs日米韓」の構図を崩したくはないのでしょう。日本もこの観点から東アジア戦略を考えるしかないのですが、それが受け入れられないのであれば、残る選択肢は自主防衛・中立策あたりでしょうか。ただし自主防衛は簡単ではなく、莫大な時間と予算がかかることは明白ですから、あまり現実的な策ではないでしょう。

 戦略論とは科学ではなく、アートであり、実践であります。そうなりますと戦略眼を養うのに必要なのは、こういうと身も蓋もありませんが、幅広い教養と一般常識といったあたりに落ち着いてしまいます。若い人のキャリアにとって教養は無価値だ、というもありますが、これがある一定の年齢以上になると、教養は視野を広げてくれるものとなります。ですので理想としては若いうちから専門性を磨きつつ、教養も身に付ける、もしくはキャリアの転換点などで集中して勉強する、といったことが重要なのではないかと思います。
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by chatnoir009 | 2014-02-20 22:15 | 国際情勢 | Trackback | Comments(0)
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