戦略的思考のススメ
2014年 02月 18日
アメリカ政府が安倍首相の靖国参拝に遺憾の意を示し、さらには上から目線で日韓関係の改善を迫る態度に接しますと、感情的に気分の良いものではありませんが、それと同時に1941年の日米交渉を彷彿とさせてくれます。日米交渉とは当時悪化しつつあった日米関係の改善と東アジアの安定のため、日米間で半年以上かけて断続的に行われた外交交渉です。日本側の狙いは、アメリカからの石油など物資の輸入と日中戦争の斡旋、アメリカ側の狙いは中国への経済的な参入とアメリカを仮想敵国とした日独伊三国同盟の無効化にありました。
結論から言えば日米交渉は失敗するのですが、その理由には諸説あります。しかし根本的な問題として、日米の問題に向き合う際のスタンスの違いが大きかったのではなかったかと思います。アメリカの政治家は問題を考える際にはまず戦略的に大きな原則を描き、そこから細部を詰めて行くトップダウン方式です。日本の場合は、最初に官僚などが細部をつめ、上に持って行くボトムアップ方式です。日米交渉の際、アメリカ側はまず「ハル四原則」なる非常に抽象的な大枠を決め、そこから交渉を進めようとします。しかし日本側はまず大枠を決めてから交渉することに慣れていませんので、細部から詰めて行こうとします。そのため、「日米諒解案」という個別の具体案を準備して交渉に臨むわけです。しかしこれでは議論は全くかみ合いません。例えば最大の懸案であった日中戦争について、日本側は「まずアメリカに日中の仲裁をやってもらい、その後、戦争を終結したい」と訴えたのですが、アメリカ側は「すべての国家の領土保全と主権の尊重が第一(交渉を始めたかったらまず日本が中国から手を引きなさい)」と言って全く聞く耳を持ちません。つまり日本側は個別交渉から入ろうとしているのに対し、アメリカ側は原理原則から入ろうとしているので、最後の最後まで議論は平行線の様相を呈します。
日米交渉の教訓としては、アメリカの政治指導者の考え方は原則論や戦略論であり、日本のそれは個別の具体論です。これは日米それぞれの考え方に根差しているとも言えます。日本は現場からトップまでがどちらかといえば現場主義的であり、ボトムアップとすり合わせが得意です。逆にアメリカでは現場は現場が考えること、トップは大枠を示し現場には関心を持たない、といったところでしょうか。これを最近の日米韓関係に当てはめてみますと、アメリカはまず朝鮮半島有事や日中戦争といったシナリオを大枠で描き、そこから「有事の際には日米韓関係の結束が重要だから、まずは靖国よりも日韓関係を修復してね」という具体的な結論を導き出します。片や日本は「靖国は心の問題である」、「日韓関係は手詰まりだ」という近視眼的な観点から物事を考え、「アメリカさん、日韓の間に立って何とかしてくださいよ」という結論に辿りつつあるのかと。これでは日米交渉の時と同じく、お互いの意見は平行線のままです。ついでに言いますと、アメリカは日韓の間にも立ってくれないでしょうし、どちらかに肩入れというケースもありそうにありません。しかし日本と韓国はアメリカを少しでもこちら側に引き込もうとしているわけです。
この構図は、日米交渉を行っていた時の、日中関係にも似ています。当時、日本と中国はなんとかアメリカをそれぞれの側に付けようとします。日本は正面から外交交渉で何とかしようとしますが、片や中国側は猛烈なロビー活動でワシントンに食い込んでいきます。その結果、最後の最後の段階で、ハル国務長官が中国側の主張を受け入れ、ハルノートという対日強硬案を日本側に提出するという、日本にとっては最悪の状況に陥るわけです。
個人的には歴史が繰り返されるとは考えませんが、歴史から教訓を学ぶことは可能だと思います。つまり日米交渉の失敗から学ばないといけないことは、①日本は戦略的に大局から物事を考える必要があった、②対米ロビー活動は馬鹿にならない、といったあたりでしょうか。日本がアメリカに合わせて戦略的な考えをする必要などない、という意見もありますが、少なくとも当時の日本は原油輸入の80%以上をアメリカに頼っていたにも関わらず、戦争を挑んだという非合理的な行動を取っています。現在の日本も安全保障をアメリカに頼っている以上、日米間で交渉を進めていくのであればやはりアメリカと同じ視点に立つしかないかと思います。さらに言えば、中国などもアメリカに近く、戦略的な考え方をするわけですから、その中で日本だけが細部に拘って大局観を持たないのもどうかと。
戦略といえば今年に入ってようやく日本版国家安全保障会議(NSC)が出来たのですから、こちらで検討していただきたいのですが、問題は、日本人に染みついたボトムアップのやり方を変えられるかどうかです。やはり戦略を立てるには、まずは政治リーダーが大きな図を描き、それをNSC事務局で具体化できるかどうかです。やってはいけないのは、事務方であるNSC事務局が戦略を考え、それを政治リーダーに上げてしまうようなやり方でしょう。これでは戦前、軍の中堅官僚がやったことと全く同じです。その結果、日本はアメリカとの戦争をやらざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。
さらに戦前の状況と被るのは、日本はロビー活動では中国や韓国に後れを取っている、といった点でしょうか。ロビー活動についてはなかなか難しいのですが、ここは中韓以上にアメリカにがっちり食い込んでいるイスラエルあたりに教えを乞うた方が良いかもしれません。
あとは日本と韓国(、中国)との関係も修復していく必要があるのですが、国民の目に付きやすい外交交渉が難しければ、裏のルート(バックチャンネル)の構築が不可欠かもしれません。これは諸外国では対外情報機関などがこっそりとやる仕事ですが、意外と効果があるようです。例えば1977年のイスラエルとエジプトの電撃的な和解は、両国の情報機関同士が秘密裏に接触したことが始まりでした。お互いの国民感情を考えれば、外交交渉から始めるのはほぼ不可能だったと思います。日本の外務省は戦前、軍が外交に介入したことを踏まえ、外交の一元化を掲げていますが、表向きの外交だけですべてが解決できるほど国際社会は甘くなさそうです。ビジネスや身の回りにおいても、表面的な会議だけで物事は決定されず、根回しや裏交渉は必要不可欠なのですから、こういった現実的な対応も必要かなと思います。しかしその前にまずは我が国に対外情報機関を設置しないといけないのですが。。。
結論から言えば日米交渉は失敗するのですが、その理由には諸説あります。しかし根本的な問題として、日米の問題に向き合う際のスタンスの違いが大きかったのではなかったかと思います。アメリカの政治家は問題を考える際にはまず戦略的に大きな原則を描き、そこから細部を詰めて行くトップダウン方式です。日本の場合は、最初に官僚などが細部をつめ、上に持って行くボトムアップ方式です。日米交渉の際、アメリカ側はまず「ハル四原則」なる非常に抽象的な大枠を決め、そこから交渉を進めようとします。しかし日本側はまず大枠を決めてから交渉することに慣れていませんので、細部から詰めて行こうとします。そのため、「日米諒解案」という個別の具体案を準備して交渉に臨むわけです。しかしこれでは議論は全くかみ合いません。例えば最大の懸案であった日中戦争について、日本側は「まずアメリカに日中の仲裁をやってもらい、その後、戦争を終結したい」と訴えたのですが、アメリカ側は「すべての国家の領土保全と主権の尊重が第一(交渉を始めたかったらまず日本が中国から手を引きなさい)」と言って全く聞く耳を持ちません。つまり日本側は個別交渉から入ろうとしているのに対し、アメリカ側は原理原則から入ろうとしているので、最後の最後まで議論は平行線の様相を呈します。
日米交渉の教訓としては、アメリカの政治指導者の考え方は原則論や戦略論であり、日本のそれは個別の具体論です。これは日米それぞれの考え方に根差しているとも言えます。日本は現場からトップまでがどちらかといえば現場主義的であり、ボトムアップとすり合わせが得意です。逆にアメリカでは現場は現場が考えること、トップは大枠を示し現場には関心を持たない、といったところでしょうか。これを最近の日米韓関係に当てはめてみますと、アメリカはまず朝鮮半島有事や日中戦争といったシナリオを大枠で描き、そこから「有事の際には日米韓関係の結束が重要だから、まずは靖国よりも日韓関係を修復してね」という具体的な結論を導き出します。片や日本は「靖国は心の問題である」、「日韓関係は手詰まりだ」という近視眼的な観点から物事を考え、「アメリカさん、日韓の間に立って何とかしてくださいよ」という結論に辿りつつあるのかと。これでは日米交渉の時と同じく、お互いの意見は平行線のままです。ついでに言いますと、アメリカは日韓の間にも立ってくれないでしょうし、どちらかに肩入れというケースもありそうにありません。しかし日本と韓国はアメリカを少しでもこちら側に引き込もうとしているわけです。
この構図は、日米交渉を行っていた時の、日中関係にも似ています。当時、日本と中国はなんとかアメリカをそれぞれの側に付けようとします。日本は正面から外交交渉で何とかしようとしますが、片や中国側は猛烈なロビー活動でワシントンに食い込んでいきます。その結果、最後の最後の段階で、ハル国務長官が中国側の主張を受け入れ、ハルノートという対日強硬案を日本側に提出するという、日本にとっては最悪の状況に陥るわけです。
個人的には歴史が繰り返されるとは考えませんが、歴史から教訓を学ぶことは可能だと思います。つまり日米交渉の失敗から学ばないといけないことは、①日本は戦略的に大局から物事を考える必要があった、②対米ロビー活動は馬鹿にならない、といったあたりでしょうか。日本がアメリカに合わせて戦略的な考えをする必要などない、という意見もありますが、少なくとも当時の日本は原油輸入の80%以上をアメリカに頼っていたにも関わらず、戦争を挑んだという非合理的な行動を取っています。現在の日本も安全保障をアメリカに頼っている以上、日米間で交渉を進めていくのであればやはりアメリカと同じ視点に立つしかないかと思います。さらに言えば、中国などもアメリカに近く、戦略的な考え方をするわけですから、その中で日本だけが細部に拘って大局観を持たないのもどうかと。
戦略といえば今年に入ってようやく日本版国家安全保障会議(NSC)が出来たのですから、こちらで検討していただきたいのですが、問題は、日本人に染みついたボトムアップのやり方を変えられるかどうかです。やはり戦略を立てるには、まずは政治リーダーが大きな図を描き、それをNSC事務局で具体化できるかどうかです。やってはいけないのは、事務方であるNSC事務局が戦略を考え、それを政治リーダーに上げてしまうようなやり方でしょう。これでは戦前、軍の中堅官僚がやったことと全く同じです。その結果、日本はアメリカとの戦争をやらざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。
さらに戦前の状況と被るのは、日本はロビー活動では中国や韓国に後れを取っている、といった点でしょうか。ロビー活動についてはなかなか難しいのですが、ここは中韓以上にアメリカにがっちり食い込んでいるイスラエルあたりに教えを乞うた方が良いかもしれません。
あとは日本と韓国(、中国)との関係も修復していく必要があるのですが、国民の目に付きやすい外交交渉が難しければ、裏のルート(バックチャンネル)の構築が不可欠かもしれません。これは諸外国では対外情報機関などがこっそりとやる仕事ですが、意外と効果があるようです。例えば1977年のイスラエルとエジプトの電撃的な和解は、両国の情報機関同士が秘密裏に接触したことが始まりでした。お互いの国民感情を考えれば、外交交渉から始めるのはほぼ不可能だったと思います。日本の外務省は戦前、軍が外交に介入したことを踏まえ、外交の一元化を掲げていますが、表向きの外交だけですべてが解決できるほど国際社会は甘くなさそうです。ビジネスや身の回りにおいても、表面的な会議だけで物事は決定されず、根回しや裏交渉は必要不可欠なのですから、こういった現実的な対応も必要かなと思います。しかしその前にまずは我が国に対外情報機関を設置しないといけないのですが。。。
by chatnoir009
| 2014-02-18 22:54
| 国際情勢