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ホワイトホール61番地 ~ インテリジェンスを学ぶ

「めちょっく」or「キラやば~☆」?

戦争学のすすめ

なぜ『はだしのゲン』なのか?
 
 連日、漫画『はだしのゲン』が話題となっているようですが、個人的には『はだしのゲン』ぐらいなら学校の図書館にあっても問題ないと思います。ただし内容的には疑問に感じる点も少なくありません。私が初めて同漫画を読んだのは、中学生の頃だったと記憶していますが、私の周りでは当時から既に「ネタ本」扱いされていました。あの漫画はそこそこ分別のある子供にとって、教師が真剣に薦めれば薦めるほど茶化す対象になってしまいますし、逆に小学生ぐらいの子供にとっては描写が過激すぎます。要するにあの漫画はどういう読者を対象としているのか良くわからないところがあります。作者の中沢啓治氏は子供にトラウマを植え付け、原爆の恐ろしさを伝えたい、と発言したこともあるようですが、やはりそのようなやり方は教育としてはいかがなものかと思います。
 私はこれまで何度も『はだしのゲン』を読み返してきましたが、そもそも読み物としては未熟な作品です。特に方々で指摘されていますように、共産党系の雑誌に連載し始めた頃から話の内容が、露骨な政治批判やヒロポンの話など、本筋からどんどん逸れていきます。もちろん前半部分は作者の執念のようなものが伝わってきて、反戦漫画としてはそれなりに読み応えもあるのですが、全体としては果たしてどうかという内容です。同じ原爆でも、こうの史代氏の『夕凪の街 桜の国』の方が遥かに出来が良いですし、平和教育であれば『火垂るの墓』などでも戦争の恐ろしさを十分に学ぶことができます。要は「なぜ『はだしのゲン』でないと駄目なのか」という点が曖昧なままなのです。

日本の平和教育
 
 義務教育で平和教育を行うこと自体は賛成ですが、平和教育だけというのにも大いに不満があります。平和を教えるのであれば戦争についても教えるべきでしょう。とにかく日本の平和教育というのは、「平和=善、戦争=悪」という単純な二元論、もっと言えば「反戦教育」であって、昔あった「バイク=悪」の「バイク三ない運動」に近いものがあります。大学教育を見ても、「平和学」や「平和構築論」のような講座は多いですが、「戦争学」という講座は聞いたことがありません。恐らくやっているのは防衛大学校ぐらいのものではないでしょうか。つまり「平和の素晴らしさ」一辺倒では、結局「ダチョウの平和論」から一歩も抜け出ることはできません(もちろん現場の先生なり、その上の某組織なりが反戦教育を行うこと自体を目的としていることは想像できますが)。
 現在の国際政治学という学問が100年以上かけて辿りついた結論は、「結局、国際関係を安定させるのは武力による抑止と勢力均衡である」(リベラル派はこれに「経済の相互依存の深化が戦争を遠ざける」と付け加えますが)という古典的なものです。つまり平和を理解するためには戦争や軍事を学ばないと教条的な平和論から一歩も進めません。日本が現在「平和」なのは、戦後の教育の賜物ではなく、在日米軍と自衛隊の存在であるということは言うまでもありません。もちろん現在の義務教育の体系では本格的な戦争論を教えることはできないとは思いますし、現場の意識改革も必要なのですが、「できない」ではいつまで経っても前に進みません。

イギリスの事例
 
 参考までにイギリスの事例などを紹介しておきますと、イギリスの小学校では日本と違って歴史の授業できちんと現代史を教え、また社会見学などでよく軍事博物館などを訪れます。これは近代以降ほとんど戦争に負けたことがないイギリスだから可能なことかもしれませんが、軍事博物館での展示は基本的には兵器の客観的なスペックの紹介や戦場での使われ方になります。戦争の悲惨さなど感情的に訴えるような展示はほとんどありません。子供にとって軍事博物館とは、戦争の歴史や国防の重要性を学ぶ「場」以上でも以下でもありません。ロンドンの代表的な軍事博物館である帝国戦争博物館(Imperial War Museum)は、博物館を訪れた15歳以下の子供の数を公表していますが、2010年には年間45.6万人もの子供が来訪しています。ロンドンだけでも目ぼしい軍事博物館は5館以上ありますし、イギリス全土だとどれぐらいあるのか想像もつかないですが、恐らくイギリス全体で軍事博物館を訪れる子供の数は年間100万人を下らないのではないかと推測します。

 「戦勝国」イギリスの真似をして今すぐ子供たちに遊就館や大和ミュージアムを見学させろ、とは言いませんが、本当に『はだしのゲン』が平和教育を学ぶために適切なのか、そして日本の平和教育そのものが妥当なのか、について一度議論した方が良いように思います。


 
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英帝国戦争博物館
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by chatnoir009 | 2013-08-29 23:00 | その他 | Trackback | Comments(0)
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