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ホワイトホール61番地 ~ インテリジェンスを学ぶ

「めちょっく」or「キラやば~☆」?

日本版NSC

 5月29日の各紙に日本版NSC(国家安全保障会議)の記事が載っておりましたので、少し整理しておきたいと思います。NSCとは大統領や首相の下で外交・安全保障問題に関する中長期的な戦略を立案する組織であります。例えば元祖アメリカのNSCであれば、大統領に対して助言を行う諮問機関的なものですが、最近設置されたイギリスのNSCであれば、首相も交えて議論を行い、その場で決定することも可能です。そのため制度的にはアメリカよりもイギリスのNSCの方が権限が強いことになります。アメリカにはキッシンジャー博士やライス博士が務めたことで有名な国家安全保障担当大統領補佐官という制度があり、NSCを率いて影響力を発揮することもできますが、こちらはやや俗人的な性格を帯びています。
 
 NSCという組織を考える場合、重要なのは「ブレーキ」と「アクセル」です。NSCを車に例えると、政治指導者はドライバー、事務方はナビ、参加閣僚は同乗者といったところでしょうか。あとは運転手がナビや同乗者と相談しながら、ブレーキとアクセルを使い分けて車を目的地まで走らせることができるかどうかです。ここでアクセルとは、平時の戦略策定や戦時の戦争指導など能動的なものを意味し、ブレーキとはNSCに合議制などを導入することで、指導者の勝手な暴走を防ごうという考え方です。イギリスの場合、元々は閣議で色々と決めていたのですが、ブレア政権になると首相が側近との話し合いだけで国の重要な政策(例えばイラク戦争開戦など)を決めてしまうことがあったため、これに制限をかける(ブレーキ)意味でNSCが設置されたのだと推測します。NSCでは少なくとも閣僚が数人以上集まり、みんなで話し合って決めないといけません。
 逆に日本には中曽根政権時に設置された安全保障会議というものがありますが、こちらはシビリアンコントロール(文民統制)というブレーキの機能を重視しすぎて、今日に至るまでブレーキを踏みっぱなしに近い状況ではなかったかと思います。そこで今回の政府の方針は、4大臣による柔軟で機動的な会合を設置することで、車を前に進めようとする意図があるのではないでしょうか。
 NSCを考える上でもう一つ重要な視点は、戦略と情報の関係です。この問題に関してはこちらにも書いたところですが、基本的に政府の中で戦略部門と情報部門は分離されている必要性があります。米英を見ても、NSCと情報機関は制度的にそれぞれ独立しています。しかし毎日新聞の論調などを見てみますと、「国家安全保障局は政策の基本方針や、関係省庁が提供する情報の分析などを担当する組織」とあり、どうもNSCで戦略と情報をやるというような話で理解されている可能性もありますが、これは後に書きますように各省庁の思惑が絡んでいるようです。
 
 ただ一つ気になったのは、NSCの担当大臣を国家安全保障担当の首相補佐官にするという一項であります。アメリカであれば大統領補佐官は強力な権限を持つことができますが、政治家とはいえ日本で補佐官というとやや弱い気もします。さらに報道によりますと補佐官の権限は「会議に出席し、意見を述べることができる」としか規定されていないそうですので、これはいかにも骨抜きな印象です。
 これに対して昨年の民主党案では安全保障担当の内閣官房副長官を置くというものでした。内閣官房副長官だと、首相-官房長官-官房副長官というラインに乗りますので、こちらの方が権限は強いです。権限が強くなると霞が関に対する睨みが効くようになるのですが、逆に霞が関から見れば、NSC担当の政治家があまり権限を持ちすぎるのは…という考え方もあります。ただNSCというのはあくまでも政治主導で国の方針を決める場所ですので、ある程度政治家が主導権を握れるように設計しておかないと、屋上屋になる可能性が高いかもしれません。
 
 今回、各紙の論調の中で最も鋭いと感じたのは、産経新聞の論説でした。同紙の指摘によりますと、今回のNSCをめぐる議論の背景には外交・安全保障政策・インテリジェンスをめぐる外務省と警察庁間の権限争いがあるということです。現在、内閣官房にはインテリジェンスを専門的に扱う内閣情報調査室がありますが、こちらのトップは代々警察出身者です。外務省は虎視眈々とトップの座を狙ってきた経緯がありますが、警察を向こうに回してはなかなか上手くいきません。そこで今回、同じ内閣官房の中にNSC事務局を作り、こちらで情報も扱うようにして、これを外務省の縄張りとすればNSCも情報も手に入るのでは…というような発想でしょうか。産経の記事に拠りますと、このような外務省の思惑に対して警察が反発しており、そのため内調にヒュミント組織を新設することで引き続き情報の手綱は内調が握り続ける、という構図ができつつあるようです。
 NSCがどの省庁色になるかどうかは、初代事務局長がどこから任命されるかにかかっています。ただ個人的にはNSCは設置すべきだと思いますし、情報収集能力ももっと上げないといけません。インテリジェンスや安全保障問題は「オールジャパン」体制で臨むのが基本だと考えていますので、内調、NSCの人選は出身官庁や官民に縛られず、その時々の最良の人材を登用すべきではないでしょうか。

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by chatnoir009 | 2013-05-30 22:28 | インテリジェンス | Trackback(1) | Comments(0)
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