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「魔法は探し求めている時が一番楽しい」


by chatnoir009
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新たな提言

 今月の『中央公論』で、自民党の河野太郎議員、民主党の馬淵澄夫議員、みんなの党の山内康一議員が連名で、「日本型『スパイ機関』のつくり方」と題した提言を寄稿されています。なかなか現状を上手く捉えてあり、提言内容も興味深いものでしたが、それよりも現役の議員の方々が超党派でこのような提言を発表したというのは、前例がなかったと思います。思い返せば1985年のスパイ防止法に対する世論の抵抗を受けて以来、政治家の間でインテリジェンスについて論じることは一種のタブーとされてきたのですが、最近ではこの分野も徐々に議論されるようになってきました。
 今回のものは内容も正論ですのでケチのつけようがありませんが、興味深いのは日本のインテリジェンス・コミュニティーの人員、予算的な規模を明らかにしている点だと思います。本提言によりますと、日本の対外インテリジェンス組織は、内閣情報調査室(167人, 20億円)、内閣情報衛星センター(213人, 630億円)、外務省国際情報統括官組織(81人, 5億円)、防衛省情報本部(2451人, 505億円)、公安調査庁(1530人, 140億円)で、合計4500人、1300億円体制だそうです。なかなか赤裸々な数字でありますが、ここに外事警察や陸海空自衛隊情報部の人員と予算が含まれていないのがやや気になるところです。これら組織はそれ程大きな規模ではありませんので、合計で5000人、1500億円の規模に収まるといったところでしょうか。また本提言では、将来的に日本も500人、200億円ぐらいの規模の対外情報機関を作るべきだとしています。これは本提言で比較の対象とされているJETROの1553人, 258億円、 JICAの1827人, 2037億円と比べてもかなり控えめな数字です。
 そもそもアメリカのCIAは2万人近い規模ですし、少数精鋭の英国秘密情報部(MI6)ですら2000人強の規模です。欧米ではインテリジェンス組織の規模は、その国の軍隊組織の大よそ5-10%ぐらいに収まっています。日本の場合、自衛隊の規模が20万人、4.5兆円ぐらいですので、インテリジェンスには1~2万人、2000~5000億円ぐらいの資源が投入されて初めて欧米の平均的な規模となるわけです。そう考えるとまだ5000人、1000億ぐらいは足りないことになりますので、500人、200億円の対外情報機関というのはやはり小粒な印象です。ただ個人的には現実的な数字と思いますし、提言内でも「身の丈に合った対外インテリジェンス機関」と表現されています。今後対外インテリジェンス機関について議論される場合、この数字が一定の目安となるのかもしれません。

 新たな提言_e0173454_22284973.jpg話は変わりますが、今アメリカではMark Mazzetti氏によるThe Way of the Knife: The CIA, a Secret Army, and a War at the Ends of the Earthという新書が評判となっているようです。私は未読なのですが、9/11以降のCIAが、インテリジェンスよりも軍との秘密作戦、特に無人機による暗殺(targeted killings)に重点を移しつつあるという内容のようです。CIAに関しては最近のJohn Brennan新長官の就任をめぐる議会での討論が注目を浴びましたように、無人機のミッションはアメリカでもかなり問題視されています。ちょうど昨日の「ヘラルドトリビューン」紙でも本書の書評めいたものが載っていましたが、9.11以降CIAはあまり良くない方に変わってしまったといったという論調のようです。これを読んでいますと、どうも大統領やNSCからCIAに対して中長期的な戦略に基づいた命令が下されていないような印象です。個人的な推測で恐縮ですが、とにかく「テロとの戦いに勝利する」という前提が先にあり、現場は安易な無人機作戦に流れているようなイメージです。やはりCIAはインテリジェンス機関ですので、秘密工作よりも情報収集、分析業務に注力すべきだとは思うのですが。。。
新たな提言_e0173454_22324229.jpg
 さらに話は飛びますが、Georgetown University PressからIntelligence Elsewhere という研究書が出版されました。これはアングロサクソン諸国以外のインテリジェンスについて網羅的に書かれた貴重なものでして、各国のインテリジェンスの組織文化やカルチャーに始まり、中国、インド、ロシア、アラブ諸国、パキスタン、イラン、インドネシア、日本、ガーナ、アルゼンチン、スウェーデン、フィンランドなど各国のインテリジェンスについて解説されています。各国のインテリジェンスについては最近までBrassey’s International Intelligence Year Book という本が毎年出版されていたのですが、大人の事情からか2003年を最後に見かけなくなりました。そう考えますとあまり資料のないアングロサクソン以外のインテリジェンスについて書かれた書籍というのは貴重なものだと思います。ちなみに日本の章については私が担当しておりますが、4年ぐらい前に原稿を提出して以来音沙汰がなかったので、すっかりと忘れておりました。何とか本に仕上がってほっとしております。
by chatnoir009 | 2013-04-17 22:35 | 書評