中国のインテリジェンス
2013年 03月 19日
最近、中国人民解放軍のサイバー部隊「61398」が話題となっていますが、昨年も農水省にコネクションのあった李春光氏の一件が大々的に報じられています。こういった事件がある度に中国のインテリジェンスについて調べようとするのですが、中国政府の秘匿性から同分野に関する著作を見つけるのは骨の折れる作業でした。ところが気が付くとここ一年ぐらいの間に日本語で出されたものでも、ディヴィッド・ワイズ『中国スパイ秘録』、中西輝政・落合浩太郎『インテリジェンスなき国家は滅ぶ』、野口東秀『中国真の権力エリート』、春名幹男『米中冷戦と日本』、柏原竜一『中国の情報機関』とかなり充実してきています。これらは学術書ではないのでどこまで真実に迫っているのかはよくわかりませんが、少なくとも中国のインテリジェンスが以前ほど秘密のベールに覆われたものではなくなってきているのだと思います。
ちょうどSurvivalの最新号でも元6の副長官、Nigel Inkster氏が “Chinese Intelligence in the Cyber Age” と題し、中国のインテリジェンスについて論文を書いておられます。Inkster氏についてはこのブログでも何度も取り上げていますが、ここだけの話、氏は専門が中国情報でしたので、中国に関するインテリジェンスの話は実体験が込められたものだと思います。
よく言われますように、ソ連・ロシアの情報機関は基本的に機密を持ってそうな人物を定めた一点突破のやり方で、その過程で情報部員と情報提供者の間には契約関係に近い金銭の取引が発生するわけです。つまり情報提供者の方は自覚的にスパイ行為に加担しているわけです。一方、中国のやり方は「千粒の砂」を集める方針でして、とにかくどんな些細な情報でも集めるだけ集めるという方式です。中国の情報・公安部員はできるだけ広く交友関係を作り、食事などの場で「意見交換」という形で広く情報を集めようとします。もちろんこのやり方だと機密情報は得られないかもしれませんが、時として相手が無自覚に機密を喋っているかもしれませんし、また取り締まる側からすれば、金銭をやり取りしているわけではないので立件に持って行くのが難しいようです。もし相手が必要な機密を持っていると判り、それがすぐ必要となれば金銭を渡して情報を受け取り、あとは出来る限り迅速に国外逃亡すれば良いわけです。
この点について『中国の真の権力エリート』の著者、野口東秀氏は「特に大学や研究機関の学者はターゲットになりやすい。公私ともに工作活動の手法を知らない上、中国での人脈がさほどない人はなおさらだ。自分の専門分野の見識を過度に披瀝するだけでなく、専門分野以外でまた聞きした情報をいとも簡単に相手に与えてしまう傾向にある。学術交流やシンポジウムなどで訪中した際、公開に近い政府関連の情報についての意見交換から工作活動は始まっているとみたほうがいい」(33頁)と書いてある通り、政府関係者だけではなく、研究者も狙われているという自覚を持たないといけません。
ただ問題は集めるだけ集めた情報をどう集約し、分析しているかですが、この点はあまり上手くいっていないようです。元々中国では中共系の情報機関、政府系の情報機関、軍系の情報機関の割拠性は極めて強く、かつて胡錦濤前主席もアメリカのNSCやイギリスのJICのような中央機関を作ろうとして失敗しているそうです。そのためInkster氏によると、中国の政治リーダー達はそれ程対外情報を重要視していないのではないか、と推論されているようです。
今話題のサイバーに関しては、2009年に発覚したGhost Net、2010年にGoggle社のシステムに侵入したAurora、2011年のShady Ratなど、違法ハッキングに関しては枚挙に暇がないようです。サイバーの問題は、中国が放った攻撃に対する有効な反撃手段がなかなかないことと、中国が欧米から得る情報が多いのに対して、欧米はハッキングまでして中国から得る情報が相対的に少ないという、非対称性にあるとのことです。ですのでサイバーは中国にとって、とても効率の良い情報収集手段となりつつあるようです。
Inkster氏はこの論文を通じて、欧米の政府関係者に警告を発していることは明らかです。要点を纏めますと中国のスパイによる従来の情報収集は厄介だが、サイバーはそれ以上に厄介であるため、早急に手を打たないといけない、ということになるのでしょう。もちろん日本の政府関係機関や先端技術を扱う民間企業も中国にとって格好のターゲットですので、我々もこの分野にもっと関心を持たないといけないのですが。
蛇足ですが最近はこちらでも雑文を書いております。
ちょうどSurvivalの最新号でも元6の副長官、Nigel Inkster氏が “Chinese Intelligence in the Cyber Age” と題し、中国のインテリジェンスについて論文を書いておられます。Inkster氏についてはこのブログでも何度も取り上げていますが、ここだけの話、氏は専門が中国情報でしたので、中国に関するインテリジェンスの話は実体験が込められたものだと思います。
よく言われますように、ソ連・ロシアの情報機関は基本的に機密を持ってそうな人物を定めた一点突破のやり方で、その過程で情報部員と情報提供者の間には契約関係に近い金銭の取引が発生するわけです。つまり情報提供者の方は自覚的にスパイ行為に加担しているわけです。一方、中国のやり方は「千粒の砂」を集める方針でして、とにかくどんな些細な情報でも集めるだけ集めるという方式です。中国の情報・公安部員はできるだけ広く交友関係を作り、食事などの場で「意見交換」という形で広く情報を集めようとします。もちろんこのやり方だと機密情報は得られないかもしれませんが、時として相手が無自覚に機密を喋っているかもしれませんし、また取り締まる側からすれば、金銭をやり取りしているわけではないので立件に持って行くのが難しいようです。もし相手が必要な機密を持っていると判り、それがすぐ必要となれば金銭を渡して情報を受け取り、あとは出来る限り迅速に国外逃亡すれば良いわけです。
この点について『中国の真の権力エリート』の著者、野口東秀氏は「特に大学や研究機関の学者はターゲットになりやすい。公私ともに工作活動の手法を知らない上、中国での人脈がさほどない人はなおさらだ。自分の専門分野の見識を過度に披瀝するだけでなく、専門分野以外でまた聞きした情報をいとも簡単に相手に与えてしまう傾向にある。学術交流やシンポジウムなどで訪中した際、公開に近い政府関連の情報についての意見交換から工作活動は始まっているとみたほうがいい」(33頁)と書いてある通り、政府関係者だけではなく、研究者も狙われているという自覚を持たないといけません。
ただ問題は集めるだけ集めた情報をどう集約し、分析しているかですが、この点はあまり上手くいっていないようです。元々中国では中共系の情報機関、政府系の情報機関、軍系の情報機関の割拠性は極めて強く、かつて胡錦濤前主席もアメリカのNSCやイギリスのJICのような中央機関を作ろうとして失敗しているそうです。そのためInkster氏によると、中国の政治リーダー達はそれ程対外情報を重要視していないのではないか、と推論されているようです。
今話題のサイバーに関しては、2009年に発覚したGhost Net、2010年にGoggle社のシステムに侵入したAurora、2011年のShady Ratなど、違法ハッキングに関しては枚挙に暇がないようです。サイバーの問題は、中国が放った攻撃に対する有効な反撃手段がなかなかないことと、中国が欧米から得る情報が多いのに対して、欧米はハッキングまでして中国から得る情報が相対的に少ないという、非対称性にあるとのことです。ですのでサイバーは中国にとって、とても効率の良い情報収集手段となりつつあるようです。
Inkster氏はこの論文を通じて、欧米の政府関係者に警告を発していることは明らかです。要点を纏めますと中国のスパイによる従来の情報収集は厄介だが、サイバーはそれ以上に厄介であるため、早急に手を打たないといけない、ということになるのでしょう。もちろん日本の政府関係機関や先端技術を扱う民間企業も中国にとって格好のターゲットですので、我々もこの分野にもっと関心を持たないといけないのですが。
蛇足ですが最近はこちらでも雑文を書いております。
by chatnoir009
| 2013-03-19 23:15
| インテリジェンス

