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分析の重要性

 先日、CIAの元高官に会って色々と話をすることができましたが、日本のインテリジェンスに足りないのは危機意識そのものだが、情報収集よりももっと分析の方に注力すべきだというアドバイスや、日本がいきなりCIAやMI6のような機関を設置するのはとても無理なので、第二次大戦中に設置されたCIAの前身であるOSSを手本にした方が良い、というようなアドバイスは傾聴に値しました。
 OSSは第二次大戦中にアメリカの情報機関として設置されましたが、その任務は情報収集から分析、また宣伝工作まで幅広いものでした。有名な調査分析部門には、一級の歴史家や経済学者らが集められており、OSSは情報機関でありながら、優秀なシンクタンクのようであったと言われています。
 マイナーな外国語ができる地域研究者や複雑な情報処理をこなせる理系の研究者は分析官としては貴重な存在ですが、米英の情報機関を見ますと意外にも歴史学者が重用されています。CIAの伝説的な分析官、シャーマン・ケントは歴史学者、イギリスの情報機関で活躍したF.H.ヒンズレーも著名な歴史家で、歴史家というのは情報分析の業務に向いているようです。これについては元CIA分析官のステファン・マリン氏が論じていますが、断片的な史料から全体像を描く歴史家の能力というのは、情報分析官の仕事にとって重要なものだそうです。
 アルジェリアでの人質事件受け、日本では防駐官の派遣や情報収集衛星など情報収集面での強化が謳われていますが、どんな情報でもそれを生かすも殺すも分析次第なのです。分析が優秀であれば、たとえ現地の新聞の切り抜きであっても、そこから有益な情報を得られる可能性もあります。現在の霞が関の官庁では、政策部局が情報分析をすることが多いですが、それはやはり情報分析に特化した組織ではありません。内調には情報分析専門の分析官が配置されていますが、これはたった6名です。ですからこの人数を増やしたり、専門の分析組織を作ってアカデミアから人材を集めるなど、学術的素養を持った分析官を多数揃えることが日本の情報能力向上の現実的な選択肢ではないかと思います。
 
 ところでイラクやアフガン以降、CIAでは秘密工作のようなオペレーションが相当重視されていますが、私の話した方は工作畑にも関わらず、もっと分析を大切にすべきであると説いておられました。CIAの場合、長官のカラーがCIA全体に大きな影響を与えます。歴代CIAの長官の出身は、内部の生え抜き組と軍人などの外部出身者に分けられることがありますが、部内出身者であってもその人物が工作系か分析系で大きくカラーが変わってくるそうです。昨年、不倫沙汰で辞任したペトレイアス元長官は米陸軍からの引き抜きでしたので、アフガンでのオペレーションを重視されていたようですが、今度長官にノミネートされているジョン・ブレナン氏は分析畑のキャリアだそうですので、CIAは今後分析重視になるのかもしれません。
by chatnoir009 | 2013-01-28 23:20 | インテリジェンス