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「魔法は探し求めている時が一番楽しい」


by chatnoir009
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尖閣の問題

 最近のForeign Policy やThe Economist といった欧米の雑誌が尖閣の問題を取り上げているのを読みましたが、内容はそれ程偏ったものでもなく、ちゃんとSenkakus と表記されているのには安堵しました。Economistの方は衝突を避けるための様々な方策が書かれていましたが、アメリカによる対中抑止を機能させること、あとは中国の出方次第だ、との論調でした。
 FPの方は日中が軍事的に激突した場合の想定でしたが、中国の海軍力は量的に遥かに優位であるが、日本の海上自衛隊は質的に優位である。また中国は台湾問題や東南アジアとの領土紛争に備えて南シナ海にも部隊を展開しなければならず、尖閣問題には十分な部隊を派遣できないので、恐らく海自が中国海軍を抑え込めるだろうとの論調でした。
 まぁ日本の対潜能力も考慮すれば妥当な分析だとは思いますが、この程度のことは中国側も推定済みでしょう。昨年から中国は東南アジア諸国、及び韓国との関係改善に奔走しています。特に昨年7月、中国とASEAN諸国が結んだ「南シナ海行動宣言(DOC)」を発展させ、より拘束力のある行動規範の策定に取り組むことで合意したことで、南シナ海の領土争いにお互い武力を使わないよう取り決めたわけであります。これを中国が遵守するかどうかはさておき、理論上、南シナ海で一時的に妥協が成立すれば、尖閣有事の際に中国海軍はかなりの戦力をこちらに割けるようになるわけです。
 恐らく中国の思惑は、このような「いざとなったら全力で捕りにいきますよ」という想定を日本側に抱かせ、戦わずに妥協を引き出そうとする孫子の兵法なのでしょうが、日本側はともかく、その背後にいるアメリカに対してはあまり通じていないでしょう。アメリカは対中抑止には本腰を入れ始めているようで、日本へのオスプレイ配備や、先週には米空母2隻が西太平洋で展開していたことが報道されましたし、アメリカの抑止の意図は十分伝わってきます。

尖閣の問題_e0173454_23383073.png


 アメリカから見た場合、危惧すべきは日中の領有権争というよりはむしろ台湾有事の問題にあります。もし台湾近辺で中台の対立が激化すれば、尖閣諸島は重要な戦略拠点になります。この場合、横須賀の米海軍第7艦隊が台湾近海に到達するわけですが、尖閣周辺海域が中国の手に落ちていれば、中国海軍の潜水艦は比較的容易に太平洋に進出することができますので、米艦隊は台湾周辺に近づき難くなるわけです。ですからアメリカは尖閣問題では立場を明確にして、同海域が日米同盟の適用範囲であるということを明言しているわけです。
 他方、今月のForeign Affairs誌には、“How China Sees America”という興味深い論稿が掲載されていましたが、中国はリアリストであるがゆえに、アメリカと価値観を共有できない限り、拡張主義はやがてアメリカと激突してしまうということを認識しており、アメリカの目の黒い内は中国が折れ続けなければならないことも認識しているとのことでした。まぁこれはあくまでもアメリカの中国専門家から見た中国像なので何とも言えないのですが、少なくとも中国はアメリカとの対決は望んでいないと思います。そうなってきますと日本がやるべきは日米同盟を利用して、なるべくアメリカをアジア情勢にコミットさせることなのでしょう。
 蛇足かもしれませんが、中国系の雑誌、Beijin Reviewには尖閣で中国が取るべき方策が載っていましたので簡単に紹介しておきますと(これはあくまでも中国の領土に日本が手を出してきているという前提です)、①激しく抗議し続けること、②尖閣近海まで監視船を出すこと、③中国政府にとって尖閣近海は重要拠点であると表明すること、④中国の天気予報に尖閣地方も加えておくこと、とやや控えめ&突っ込み所が多い対策ですが、少なくとも中国は尖閣問題に対しては現実的かつ戦略的なアプローチを模索しています。
 それに対して我が国の場合、尖閣問題に対しては感情的な論調が多く、せいぜい領有権など国際法の話までで、あまり戦略的にどうするべきかの議論が見られないようです。基本的に我が国の立場は「歴史的、法的に見ても尖閣諸島が我が国固有の領土であり、中国との議論に巻き込まれると領土問題があることを世界にアピールしてしまう」、というものですが、今や尖閣問題は既に世界中に知れ渡っています。
 ですからここで「歴史的にも法的にも尖閣は日本固有の領土であるし、黙っていても国際社会はわかってくれるはずだ」とタカをくくっていると、中国のプロパガンダの方が広まってしまうので、これは余りよろしくありません。領土問題は常に歴史的、法的な正当性と、実効支配による領有権が確立されている必要性があります。イギリスも歴史的な正当性に加え、フォークランド諸島の実効支配を示すため、莫大な犠牲を払わされました。ですから少なくとも日本が尖閣諸島領有の正当性を維持するために、中国の主張に対して丁寧に粘り強く反論していくしかないのですが、これをやろうとするとただでさえ忙しい霞が関の役所にさらなる負担をかけることになりますから、現場はあまりやりたがらないのかもしれません。穿った見方をすれば日本側の沈黙はこの辺にあるのかもしれませんが、これでは個々の戦闘では勝っても、プロパガンダで後れを取り続けた日中戦争の二の舞だとも言えます。
 基本的に我が国の対外戦略は、「近隣諸国との良好な関係を維持する(敵は作らない)」というものであったのですが、そろそろ東南アジアやインドと戦略的提携関係を結んで中国の膨張を封じ込めようといった議論が出てくる方が、言論の自由という観点からは健全なのではないかとも思うのですが…。
by chatnoir009 | 2012-10-02 23:40 | 国際情勢