冷戦下CIAのインテリジェンス
2012年 04月 16日
大野直樹氏による『冷戦下CIAのインテリジェンス』が出版されました。本書はインテリジェンスをめぐる軍とホワイトハウス、OSSの政治力学からCIAが設立されていく過程、そしてトルーマン政権の対外政策にCIAが寄与していく様が豊富な一次資料を駆使して簡潔に描き出されています。CIAというとアメリカの歴代政権を裏から牛耳ってきたようなイメージですが、1940年代のCIAは軍や国務省に比べると情報収集能力、分析・評価能力も大したことがなく、あまり役立っていませんでした。そのためCIAは自らの存在意義を求めて情報収集・分析機関よりも謀略や秘密工作に流れていき、1953年にアレン・ダレスが長官に就任するとその方向性が確立します。1953年のイラン・モサデク政権転覆工作から1961年のピッグス湾事件まで、ダレス長官時代のCIAは謀略に彩られた組織でした。この辺はティム・ワイナーの『CIA秘録』に詳しいです。
その後CIAがU-2高高度偵察機や世界初の偵察衛星といった技術情報の発展と、情報分析技術の向上によってCIAは今あるような形態に近づいていきます。イギリスのMI6もそうでしたが、情報機関は設置されていきなり機能し出すなどということはなく、まずは既存の省庁、特に外務系や軍事系の情報を扱う組織との縄張り争いに勝たなければならず、そのために独自の情報収集手段や分析手法を洗練する必要性が生じてくるのです。ただ本書が扱っているのは1952年まで、CIAの黎明期で終わっています。その後CIAはダレス長官時代を経て、今度は政権との関係に苦慮する時代となりますので、是非そのあたりまでの続編が読みたいところです。その場合、CIAは従来言われているように本当に謀略一辺倒だったのか、というあたりが論点になるのでしょう。
またイギリスでは昨年、イギリスの情報機関の歴史を扱った新たなテキスト、Learning from the Secret Past が出版されています。本書はイギリス情報史のテキストですが、時系列ではなく、「インテリジェンスの監視」、「インテリジェンスへの政治介入」、「カウンター・テロリズム&インサージェンシー」、「不測の事態の回避」といったトピック別の構成で、それぞれの最後の章には「学び取れる教訓」という節があり、初学者にとって「一体何が問題だったのか」というポイントを手短に学べるようになっています。例えば2003年のイラクの大量破壊兵器にまつわるインテリジェンスの教訓については、①そもそもインテリジェンスは当時の政策決定にとってそれほど決定的ではなかったのに、事後的にインテリジェンスが問題となってしまった、②インテリジェンス組織はイラクが大量破壊兵器を有しているというグループ・シンクに陥っていた、③政治家はイラクの大量破壊兵器に関する完璧なインテリジェンスを求め過ぎた、あたりを挙げています。これは妥当な結論だと思います。ついでと言っては何ですが、ブルネル大学のPhilip Davies教授が新著、Intelligence and Government in Britain and the United States を出すそうですので一応宣伝しておきます。しかし1冊183ドルというのは…。
by chatnoir009
| 2012-04-16 22:45
| 書評

