真珠湾
2011年 11月 29日
先月から12月の真珠湾攻撃70周年に向けての原稿が幾つも重なり、てんやわんやの状態でした。また来年の1月に出版予定となります単著の仕上げもありまして、当ブログの更新は完全に頭から抜け落ちておりました。そうしている間にもインテリジェンス関連の書籍がどんどん出版されているのですが、今回は微力ながら私も助言させていただいた2冊の情報史関連のものをご紹介させていただきます。
まずはElliot Carlson, Joe Rochefort’s War であります。ロシュフォートは米海軍の暗号解読官で、有名なミッドウェイ海戦の直前に日本海軍の作戦用D暗号(JN-25)を解読した人物であります。彼はハワイの通信傍受基地で真珠湾に至る日本海軍の作戦暗号をも傍受・解読しており、アメリカ側が日本の真珠湾攻撃を既知していたかどうかという、いわゆる真珠湾謀略説のキーパーソンの一人でもあります。本書は恐らくロシュフォートを正面から取り上げた最初の伝記になるかと思います。逆に言えばこれまでロシュフォートが歴史家に取りあげられてこなかったことの方が不思議でした。
著者のカールソン氏はジャーナリスト出身でプロの歴史家ではありませんが、緻密な資料猟歩によってロシュフォートという人物を上手く描き出すことに成功しています。この本の白眉はやはりミッドウェイ海戦にありますが、有名な暗号解読による待ち伏せはそれほどスムーズにはいかなかったようです。第二次大戦まで米軍は通信情報によって戦略や作戦を実行した経験がほとんどなく、情報をあまり重視していませんでした。この点は同時期の日本軍にも共通する話ですが、ミッドウェイ直前にロシュフォート達が解読した通信傍受情報も米軍の首脳部にはほとんど聞き入れられませんでした。しかし同僚のレイトンとともにニミッツ提督やターナー提督といった海軍の幹部に対して暗号解読情報の重要性を説き、これがようやく受け入れられてミッドウェイ海戦で実用化されるわけであります。最近出版されたミッドウェイ本の傑作、Shattered Swordでもミッドウェイ海戦における通信情報の役割を強調し過ぎるべきではないとの論調でありますから、このようなロシュフォートにまつわる話にも説得力があります。
真珠湾攻撃に関しては、ロシュフォート達が①日本海軍の作戦暗号を解読できていたか、②方位測定によって日本海軍機動部隊の位置を把握できていたか、の二点が主に論じられていますが、①に関しては日本海軍の暗号変更によって1941年12月に入ると解読は不可能になっていた、②に関しても日本海軍の偽電作戦によって海軍機動部隊は日本近海を移動していると考えられていた、との結論でした。
2冊目はDouglas Ford, The Elusive Enemy でして、戦間期から太平洋戦争終結まで米海軍がどのように日本海軍を認識し、情報を集めていたのか、という話です。よく言われているのは戦前の米海軍が日本海軍の酸素魚雷や零戦について的確なデータを有していなかったために、これらの兵器に苦戦させられたというものでありますが、本書も概ねこの線に沿った議論となっています。戦間期の米海軍の作戦思想は、敵より優位な戦力を集め正面から敵艦隊を叩く、という王道路線で情報を軽視していましたが、太平洋戦争の緒戦からしばらく、真珠湾奇襲攻撃によって主力艦隊を失った米海軍は常に質量で劣勢な戦力で日本海軍と対峙しなければならなくなったのです。そこで上記の通信情報の話と被ってきますが、この苦戦から学んだ米海軍は戦闘における情報を重視するようになります。本書は米海軍が情報を重視しないままだと、太平洋における戦いは長期化したのではないかとも仄めかしていますが、このような米海軍の情報軽視から重視に切り替わる動きを、組織や制度、海軍の組織文化から興味深く論じています。
真珠湾といえば、先日、NHKの『BS歴史館』の収録にも参加させていただきました。こちらは「真珠湾への7日間」と題し、真珠湾攻撃70周年の12月8日に放映される予定となっています。司会は渡辺真理さん、共演は加藤陽子先生、榊原英資先生です。
まずはElliot Carlson, Joe Rochefort’s War であります。ロシュフォートは米海軍の暗号解読官で、有名なミッドウェイ海戦の直前に日本海軍の作戦用D暗号(JN-25)を解読した人物であります。彼はハワイの通信傍受基地で真珠湾に至る日本海軍の作戦暗号をも傍受・解読しており、アメリカ側が日本の真珠湾攻撃を既知していたかどうかという、いわゆる真珠湾謀略説のキーパーソンの一人でもあります。本書は恐らくロシュフォートを正面から取り上げた最初の伝記になるかと思います。逆に言えばこれまでロシュフォートが歴史家に取りあげられてこなかったことの方が不思議でした。著者のカールソン氏はジャーナリスト出身でプロの歴史家ではありませんが、緻密な資料猟歩によってロシュフォートという人物を上手く描き出すことに成功しています。この本の白眉はやはりミッドウェイ海戦にありますが、有名な暗号解読による待ち伏せはそれほどスムーズにはいかなかったようです。第二次大戦まで米軍は通信情報によって戦略や作戦を実行した経験がほとんどなく、情報をあまり重視していませんでした。この点は同時期の日本軍にも共通する話ですが、ミッドウェイ直前にロシュフォート達が解読した通信傍受情報も米軍の首脳部にはほとんど聞き入れられませんでした。しかし同僚のレイトンとともにニミッツ提督やターナー提督といった海軍の幹部に対して暗号解読情報の重要性を説き、これがようやく受け入れられてミッドウェイ海戦で実用化されるわけであります。最近出版されたミッドウェイ本の傑作、Shattered Swordでもミッドウェイ海戦における通信情報の役割を強調し過ぎるべきではないとの論調でありますから、このようなロシュフォートにまつわる話にも説得力があります。
真珠湾攻撃に関しては、ロシュフォート達が①日本海軍の作戦暗号を解読できていたか、②方位測定によって日本海軍機動部隊の位置を把握できていたか、の二点が主に論じられていますが、①に関しては日本海軍の暗号変更によって1941年12月に入ると解読は不可能になっていた、②に関しても日本海軍の偽電作戦によって海軍機動部隊は日本近海を移動していると考えられていた、との結論でした。
2冊目はDouglas Ford, The Elusive Enemy でして、戦間期から太平洋戦争終結まで米海軍がどのように日本海軍を認識し、情報を集めていたのか、という話です。よく言われているのは戦前の米海軍が日本海軍の酸素魚雷や零戦について的確なデータを有していなかったために、これらの兵器に苦戦させられたというものでありますが、本書も概ねこの線に沿った議論となっています。戦間期の米海軍の作戦思想は、敵より優位な戦力を集め正面から敵艦隊を叩く、という王道路線で情報を軽視していましたが、太平洋戦争の緒戦からしばらく、真珠湾奇襲攻撃によって主力艦隊を失った米海軍は常に質量で劣勢な戦力で日本海軍と対峙しなければならなくなったのです。そこで上記の通信情報の話と被ってきますが、この苦戦から学んだ米海軍は戦闘における情報を重視するようになります。本書は米海軍が情報を重視しないままだと、太平洋における戦いは長期化したのではないかとも仄めかしていますが、このような米海軍の情報軽視から重視に切り替わる動きを、組織や制度、海軍の組織文化から興味深く論じています。真珠湾といえば、先日、NHKの『BS歴史館』の収録にも参加させていただきました。こちらは「真珠湾への7日間」と題し、真珠湾攻撃70周年の12月8日に放映される予定となっています。司会は渡辺真理さん、共演は加藤陽子先生、榊原英資先生です。
by chatnoir009
| 2011-11-29 22:40
| 書評

