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by chatnoir009
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韓国でのインテリジェンス研究

 前に韓国ではアメリカのインテリジェンスの教科書が翻訳されていることを書きましたが、先日、知り合いが韓国江稜大学ヨム・ドンチェ教授の「韓国における国家インテリジェンス研究-過去、現在、そして未来―」と題された論文を翻訳してくれましたので、大方の事情がわかりました。
 韓国におけるインテリジェンス研究はもともと実務志向のものであったのが、90年代以降はアカデミズムの研究として主に米英韓の情報機関に関する概説書や歴史を取り扱ったものが韓国人研究者の手によって発表されていたようです。恐らくこれは米英におけるインテリジェンス研究の興隆に連動したものであったと思いますが、韓国はこのような海外での研究動向を自国のアカデミアにもそのまま受け入れることができたようです。
 ドンチェ教授によりますと1997年に延世大学と中央大学で「国家安全保障とインテリジェンス」の講義が開設され、1999年に慶南大学が韓国で初めてとなるインテリジェンス研究での博士号を出したそうです。2000年以降になると韓国人研究者によるインテリジェンスのテキスト、『国家情報学』(2001年)、『国家情報論』(2002年)、『情報分析論』(2003年)が相次いで出版されたため、ローエンタールやシャルスキーの翻訳本の出版はこの流れに乗っているものといえます。
 現在では延世大や慶南大を初めとする韓国10以上の大学がインテリジェンスの関連講座を開設しているそうですが、これはやはり2006年以降の国家試験にインテリジェンスが受験科目として指定されたことが大きかったと思います。また韓国のビジネス界もこのような学術的インテリジェンス研究や産業スパイ問題に興味を持っているため、産学と国が連携してこのような流れを作っているようです。
 そういえば昨年、韓国で日本軍のインテリジェンスについて報告した際、結構向こうの反応が良かったのもそういった事情があったのでしょう。その時は全く気にも留めていませんでしたが。
 このような韓国でのインテリジェンス研究の興隆に比べますと、相変わらず我が国は遅々として進んでおりません。我が国の文型のアカデミアは大雑把にいえば志向はリベラルなのですが、方法論はかなり保守的です。文型の多くの分野では確固とした方法論があり、そこから逸脱してしまうとアカデミアの研究とは認められない傾向あります。まぁ「北斗と南斗以外は正当な拳法としては認めない」、といったような姿勢ですかね。それに比べると欧米、そして韓国ではこれほど厳格ではないようで、「強ければそれが拳法だ」という感じなのでしょうか。
 我が国では例えば軍事学のような分野が長年日陰者扱いにされてきましたが、最近ではようやく「安全保障論」という形で認知されるようになりました。インテリジェンスについては、歴史的アプローチから研究するには資料が少なく、歴史学のプロパーからすれば「確固とした一次資料に基づいていない」と言われそうですし、理論的アプローチから研究するにはまだ数理モデルの構築が不十分で印象論に留まっています。まぁ政策決定論や政治制度論からなら何とかなりそうなのですが…。
by chatnoir009 | 2011-08-14 16:42 | インテリジェンス