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「魔法は探し求めている時が一番楽しい」


by chatnoir009
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ウィキリークス

 先日、ジャーナリストの黒井文太郎さんとウィキリークスについて座談会を行いました。私はそれほど詳しいわけではありませんでしたので、終始黒井さんの聞き手に回っていたのですが、議論を通じて自分の中でのウィキリークス像が徐々に固まった気がします。ウィキリークスに関しては山のような議論があるわけですが、「あれはただのテロ集団だ」という否定的な意見から、「ウィキリークスは既存の国家体制を破壊して市民社会の時代を生み出す」、といったような肯定的な意見まで見られますが、私はどちらかと言えば否定的な立場です(ちなみに黒井さんはどちらでもないとの意見でしたが)。そもそも国家が機密を守るのは、国益のためであり、さらに言えば国民の利益や安全を守るためでもあるわけですから、国家機密を暴露しまくるようなウィキリークスは逆に様々なものを危険に晒す可能性があります(例えば国が管理している核兵器の設計図が流出してテロリストの手に渡れば大変危険な状況になるわけです)。
 恐らくウィキリークスが国家に与えた実質的な被害は、それまで暗号に守られていて読めなかった外交文書の中身が晒されたことで、暗号が解読される可能性が高まったことでしょう。外交文書を晒された国は暗号を変えないといけなくなります。これは相当な手間隙がかかると予想されます。それから流出に対する危険が高まったことで、9・11テロ以降進められてきた組織間での情報共有にストップがかかりそうになっているということでしょうか。こちらも新たな仕組みを考えないといけないので、各国政府では情報保全の見直しが行われていることでしょう。英国では昨年、情報保全の職員用マニュアル(SPF)が刷新されたようです。ちなみにわが国ではウィキリークスよりも海保のビデオ流出のために、現在見直し(?)が進んでいるようですが。
 ウィキリークスは基本的に組織の内部告発者に頼っているという点で、伝統的なメディアのスクープとそれほど変わりません。公開される情報量は膨大になりましたが、インパクトという点ではかつてのペンタゴン・ペーパーズやディープスロートの方が注目を集めたと思います。よってウィキリークスの存在が現在の国家体制に変革を迫れるとは考え難いのですが、もしウィキリークスが笑い男のような特A級(笑)のハッカーでも揃えて国の組織から直接ハッキングで情報を盗めるようになるか、もしくはアサンジ氏の賛同者、模倣者が次々と出てきてこれに対応できなくなるような状況にでもなれば、劇的な変化が生じるかもしれません。
 昨今の情報流出にかかわる根本的な問題は、諸外国の抱える機密や秘文書の量が膨大になり、そこにアクセスできるスタッフの数も急激に増えてきたことにあります。タイム誌によりますと、米国が抱える機密の数は1996年の10万件から2008年の18万件に、機密にアクセスできる人間の数は80万人にも上るといわれています。これだけの国家機密とアクセス権を持った人間がいれば、むしろ漏洩を防ぐほうが難しいでしょう。そもそもウィキリークスで公開された「機密」を見ればわかりますが、「リビアのカダフィ大佐がブロンドの看護婦を常に同伴させている」とか「プーチンとメドベージェフはバットマンとロビン」だとか、ほとんどが世界各国のスキャンダルや噂話であって、こんなものはとても機密とはいえません(たまに機微な情報もありますが)。よってこういったものにマル秘の判子を押して機密にしているほうが問題なわけでありますが、恐らく現場の感覚からすれば、どんな情報でも漏れたら自分の責任になるわけで、それならばマル秘にして厳重に管理しておこう、という気持ちになるのでしょうか。しかしこれ以上の機密漏洩を防ごうとするのであれば、機密やアクセス権を持つ人間の数を減らし、厳選された本当の「機密」をきっちりと管理していくしかありません。
 ただし各国の政治指導者は国が機密を守るのは国益のためであり、国民を守るためであることを自覚し、信頼回復のためにはそれを説明していく必要があるでしょう。チョムスキー氏の言葉を借りれば、国民が政府の機密管理に疑心暗鬼なのは、国が国民に都合の悪い情報を隠していると思われているからです。このような国民感情は、国やさらには既存のメディアに対する不信感として常に渦巻いています。ウィキリークスが広く支持を集めるのは、このような不信感に答えているように見えるからなのではないでしょうか。ちなみに対談は来月発売の別冊宝島に掲載される予定です。
by chatnoir009 | 2011-01-24 23:38 | インテリジェンス