2010年 11月 05日
情報保全
やや話は逸れますが、最近このブログで紹介させて頂いた『日米秘密情報機関』を読んでいて気になったのは、本書内で1980年に生じた宮永幸久元陸将補からコズロフ駐日ソ連武官に自衛隊の情報が漏洩したことが書かれています。本事件は公式には自衛隊の「秘」文書である「軍事情報月報」が流出したことになっていますが、同書によりますと洩れていたのは実は「極秘」にランクされる、アメリカから提供されていた中国情報(JA会議資料)だと書かれていました。不勉強ながらも私の知る限りこのことが明るみに出たのは初めてだと思いますが、アメリカからの資料提供の事実をさらりと書いてしまったのはやはり問題ではないかと思います。欧米では現役から退いた政治家や軍人が回顧録を書く際には必ず政府の検閲が入り、細部までチェックされます。イギリスのチャーチル元首相がかの有名な『第二次大戦回顧録』を書き上げるまでにどれほど政府の検閲が入り、国家機密に関わる事項が削除されていったのかは、David Reynolds, In Command of History という一冊の学術書に纏め上げられているほどです。私が最近調べています1956年のスエズ紛争に関しても、政治家の回顧録が検閲を受けて当たり障りのない内容になっていたのですが、最近、検閲の記録そのものが公開されたお陰で、裏の部分のかなり機微な内容がわかるようになりました。他方、我が国では特にこのような制度はないわけです。
情報保全が比較的しっかりしている欧米においても、以前本ブログで取り上げたウィキリークスなどには苦慮しており、新たな対応が求められつつあります。そう考えますと、我が国の情報保全体制というのは周回遅れに突入しているようで、たとえ機密保護法や防諜保全組織のようなものを立ち上げられたところで、欧米が直面しているような問題には対応できないような気もします。
ところで公安部の資料を読んでみて思ったのは、やはりこの程度のことしかやってないのかなぁ、というものでありますが、この点については黒井文太郎さんが鋭い指摘をされていますので、そちらを参照されたほうが良さそうです。
by chatnoir009
| 2010-11-05 21:58
| インテリジェンス