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DNI

DNI_e0173454_22361546.jpg 最近出版されました『戦略原論』という本(カバーは初見ですが小ピットとナポレオンですね)の中で、「インテリジェンス」の章を担当させていただき、その中でアメリカのインテリジェンスを評して、「今後DNIを中心とした制度に関しては予断を許さない」(316頁)と書いたのですが、今回のブレアDNI(国家情報長官)辞任は、DNIの制度設計上の問題が露呈したのではないかと思います。ブレア辞任の直接の原因は昨年12月に起こったデトロイトのテロ未遂事件を受け、上院情報特別委員によるインテリジェンスへ組織の糾弾があったと報じられていますが、より構造的な問題としては、DNIの法的地位が曖昧なままであるということのようです。この点に関しては以前ブログ内で紹介させていただいた小林良樹氏の論文に詳しいのですが、どうやら氏の指摘が的中してしまったようです。今回の場合、政治的影響力のあるレオン・パネッタ氏がDCI(CIA長官)となってしまったことで、本来であればインテリジェンス・コミュニティーを束ねるDNIとDCIの緊密な関係が構築されなければならない所、パネッタDCIの政治力がブレアDNIのそれを凌駕してしまい、DNIが機能不全に陥ってしまったと言えます。パネッタDCIはインテリジェンスのキャリアのない人物でしたので、就任当初はその能力に疑問を呈する報道も少なくありませんでしたが、氏は70年代後半から90年代前半まで議会下院の予算委員を務め、そこでインテリジェンスを含む、政府の後ろ暗い台所事情に精通したようです。その後、氏はクリントン大統領に政治手腕を買われて、大統領首席補佐官まで務めていますので、民主党内における政治力は大したもののようです。それに対してブレアDNIは確かに優れた軍人ではありましたが、インテリジェンスの経験がないという点ではパネッタDCIと同じで、そうなるとワシントンでは政治力が物を言うことになるのかもしれません。
 小林氏の指摘によりますと、前任のマコーネルDNIも軍人出身と言う点ではブレアと同じですが、その時のDCIはヘイデンという同じく軍人で、さらに両者ともNSA長官を歴任していますので、マコーネルDNI-ヘイデンDCIの組み合わせは上手く言ったようです。しかしこのような人間関係から規定されるDNIの地位というのは、何とも不安定なものでありまして、今回はその弊害が生じたということになります。大統領との接点を持つDNIこそが米国インテリジェンスのトップなのでありますから、DCIはDNIに従うよう法的に規定した方が良いのかもしれません。そうしないと米国インテリジェンス・コミュニティーにおいて最大勢力である軍事系インテリジェンスも、DNIに従わなくなる可能性が出てくるのではないでしょうか。
by chatnoir009 | 2010-05-25 22:37 | インテリジェンス