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ジョン・スカーレット

 先日イギリスから研究仲間が何人かやってきましたので、ランチを食べながら色々と話をしていました。キャメロン首相について聞いてみたところ、彼らは揃って「経験が浅い分、1997年当時のブレアよりも劣るのではないか。」という意見でした。さらに連立という事情もありますのでどうやら雲行きは怪しそうですが、経験が浅いということはしがらみも少ないということですから、逆に大胆な政策を打ち出しやすいのかもしれません。
 また6の前長官、サー・ジョン・スカーレット がRUSIのフェローになったことも知りました。確かに私がRUSIに居た頃、ミーティングの議題の一つとしてスカーレット氏をRUSIのフェローにするという話が上がっていましたが、当時氏は6の長官でありましたし、個人的には難しいのではないかと思っていたのですが、どうやら上手くいったようであります。ただスカーレット氏はJIC議長であった2002年、イラクの大量破壊兵器問題をめぐる「45分情報」の件で、当時のブレア政権からの圧力によって情報を捻じ曲げた戦犯の可能性が拭いきれません。彼が叙勲される際、同問題を根拠としてマスコミからは反発の声が上がったのですが、過去の6長官は慣習的に叙勲されてきたため、結局スカーレット氏にも「サー」の称号が与えられることとなります。
 ところでイラクの大量破壊兵器をめぐる問題の経緯は、最近かなり明らかになってきました。ガーディアン紙によりますと、もともとの情報の出所はイラクのタクシー運転手でした。この運転手は客として乗せたイラクの高官達が話をしている内容を一部覚えており、それを現地の6のオフィサーに伝えたようです。その内容は、「会議でミサイルについて45分か何かの内容について議論された」という極めて曖昧なものでした。ところが当時どんな些細な情報でもロンドンに報告するよう圧力をかけられていた在イラクのオフィサー達は、この情報を不確実としながらもロンドンに報告することとなります。そしてロンドンではスカーレット氏のJICが他の情報とつき合わせながらこの証言を吟味するのですが、徐々に「6筋の情報としてイラクが何らかの兵器を45分以内に配備することが可能」というニュアンスを帯びることとなります。さらにこの情報は、ブレア首相の側近、アラステア・キャンベル補佐官からの圧力によって、「イラクは45分以内に大量破壊兵器の配備が可能である」とドラスティックに書き換えられ、この文言が「45分以内の化学戦争」として当時のイギリスの新聞を賑わし、さらには2003年のイラク戦争開戦の口実に使われることとなります。
 さて問題はこの情報の書き換えにスカーレット氏がどの程度関与したのか、ということになるのですが、その点についてはまだ何とも言えません。確実なのは、スカーレット氏が当時の政権にかなり配慮していたこと、またその後氏は6の長官に栄転しているということです(ただし氏は大変有能な007だったようです)。当時、6の長官には副長官、ナイジェル・インクスター氏の昇進が濃厚であったとも言われていますが、ブレア政権はこの下馬評をひっくり返してスカーレット氏を6の長官に据えたようです。さらにこの件に関しては色々な噂が飛び交っているのですが、あまり書くと6から睨まれますのでこの辺にしておきます。
 話は変わりますが、最近『スギハラ・ダラー』を出版された手嶋龍一氏のお誘いを受け、某大学でインテリジェンスの講義を行ってきました。受講者の方は皆、熱心に質問してくださり、気がつくと2時間以上も話をしていました。こういう場で刺激を受けると、研究の方にも気合が入ります。
by chatnoir009 | 2010-05-14 23:38 | インテリジェンス