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Dagan's Eleven?

 今月に入り日本を含む世界中のマスコミがイスラエルの情報機関、モサドについて大々的に報道しています。日本のマスコミがモサドを取り上げるのは近年では異例のことではないでしょうか。
 この事件は1月19日、ドバイの高級ホテルの一室でハマスの高級幹部、Mahmoud al-Mabhouh氏が、電気ショックで失神させられた後、窒息死させられたもので、この殺人へのモサドの関与が疑われています。氏は立場上常に警戒心を怠らず、宿泊していたホテルも窓の開かない部屋だったそうで、そこを掻い潜っての暗殺となると相当なものです。
 報道によりますと、イギリス、アイルランド、フランス、ドイツの偽造パスポートを携えた11人のチーム(まるで「オーシャンズ」!)が暗殺を実行したそうなのですが、迂闊にも工作に向かうチームの姿が空港やホテルの防犯カメラに映っていたそうで(動画はこちら)、ドバイ当局はこの犯行が99%モサドによるものと断定しています。一方、偽造パスポートを使用されたイギリス政府はこの問題を重大に受け止めていまして、ブラウン首相自らが事件を調査することを明言しています。かつてモサドはロンドンで誘拐事件を起こしたり、イギリスの偽造パスポートを使って悪さをしていましたから、今回、イギリスとしては事件の真相究明に関心を持ち、警察の別組織である組織犯罪対策機構、SOCAが調査に乗り出しています(SOCAには知り合いがいますので、来月ロンドンで色々聞いてくるつもりではいるのですが)。
 個人的に興味深いのは、今回の犯行が本当にモサドによるものかどうか、ということでしょう。警察筋はモサドの犯行として調査していく方針のようですし、イスラエル政府はいつものごとく知らぬ存ぜぬの方針を固めています。これに対してかつてモサドに所属し、数々の悪さ秘密工作に関わってきたラフィ・エイタン氏は『ワシントン・ポスト』誌において、「(手口の杜撰さから)これは外国の情報機関がモサドに罪を被せるためにやったのではないか」と答えています。確かに防犯カメラに姿が映ってしまったのは大失態でしょうが、エイタン氏が現役から退いた後のモサドは、偽造パスポートの不法携帯による工作員の拘束や、白昼堂々暗殺に失敗した挙句工作員が逮捕される等、意外と杜撰な事をやっています。状況証拠的から察するに、今回もモサドは限りなくクロに近いのではないかと思いますが、この点に関してはガイド役を引き受けたパレスチナ人が拘束されているそうですので、ここから首謀者の身元が判明するのではないでしょうか。現在、ドバイ当局やSOCA、さらには銭形のICPOもこの事件を調査しているようです。
 むしろ問題はこの後、ハマスからイスラエルへの報復が予想されることです。モサドの数々の工作の中には、アイヒマン捕獲に見られるような輝かしいものもあるのですが、戦術的には素晴らしくとも、戦略的には中東情勢を混乱させるだけの工作も見受けられますので、もし今回の工作にモサドが絡んでいたとすれば、個人的にはやや勇み足だったのかなという印象を受けます。
 いつもお世話になっています黒井文太郎さんのブログでも同件について詳しく解説されていますので、興味のある方はこちらをどうぞ。また24日夜のJ-WAVE、JAM The World に出演して、本件についてコメントする予定です。ついでと言っては何ですが、今月の『新潮45』に「日本の情報戦略」という拙文を寄稿させていただきました。
by chatnoir009 | 2010-02-21 16:59 | インテリジェンス