人気ブログランキング | 話題のタグを見る

The Authorized History of MI5

 本日、公文書館の売店でクリストファー・アンドリュー教授の新著、Defend the Realm: The Authorized History of MI5 が大々的にセールスされているのを見つけました。本書はMI5設立百周年を記念して刊行された5のオフィシャル・ヒストリーでして、1909年の設置から現在までの百年の歴史を綴った大著であります。インテリジェンス関連のオフィシャル・ヒストリーは1970年代から80年代にかけて出版された、F. H. ヒンズレー教授(アンドリュー教授の指導教授ですね)によるBritish Intelligence in the Second World War 以来のことでして、本書の出版はそれ以来、約四半世紀ぶりのこととなります。
 The Authorized History of MI5_e0173454_485296.jpg私はアマゾンで予約していたのでその場では購入せずぱらぱらと立ち読みしてみましたが、とにかく1000頁強ある本ですので、立ち読みしていると本の重みで次第に腕が下がってきます。それでも興味のあったロジャー・ホリスの章をざっと読んでみました。ホリスは1960年代に長官を務めた人物ですが、元5オフィサーであるピーター・ライトの暴露本『スパイ・キャッチャー』でホリスがソ連側のスパイだったのではないかとの疑惑がかけられています。今回のオフィシャル・ヒストリーによりますと、確かにライトはMI5でスパイを調査する委員会を運営し、部内用のレポートを作成する立場にあったようですが、アンドリュー教授はライトの意見が謀略論に傾いており、ホリスがスパイであったとする証拠はなかったと論じています。ただし本作はもちろん5の検閲を経ていますので、もしホリス長官がソ連のスパイであったとしても、5としてはそれを公にするわけにはいかない大人の事情はあるのですが…。
 また本書は1000頁あるとはいえ、一気に百年間の歴史を扱うわけですから、やはり浅く広くの感は否めないようです。例えば5が追いかけていた日本海軍のスパイ、ラットランドの話などといった詳細には一切触れられていません。まぁ戦前であればナイジェル・ウェストの著作やガイ・リッデルの回想録がありますので、それを読めば良いということでしょうか。研究者の常として、こういう本が出ると思わず注釈の資料から目を通してしまうのですが、やはり戦後のほとんどの部分は我々にはアクセスできない5の内部資料で書かれています。また最近、公文書館で公開された5の資料も豊富に使われており、ここまでやられると自分のリサーチが無駄になりそうでちょっと落ち込みます。
 まだ読み込んだわけではありませんが、恐らく本書は5の決定版となるであろうものであり、今後5に触れる際には本書を避けては通れないでしょう。本書に続きMI6や合同情報委員会(JIC)のオフィシャル・ヒストリーも出版される予定ですので、これらの公刊によってイギリスのインテリジェンス研究はさらに前に進むのではないかと思います。
by chatnoir009 | 2009-10-08 04:09 | インテリジェンス