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ホワイトホール61番地 ~ インテリジェンスを学ぶ

「めちょっく」or「キラやば~☆」?

「5」 in Palestine

 今回も私の所に送られてきた論文、Calder Walton, “British Intelligence and the Mandate of Palestine; Threats to British National Security Immediately After the Second World War” (INS, Vol.23, No.4 Aug 2008) の紹介になります。ちょうど今、イスラエルのモサドについて調査しておりまして、この論文は私の関心にヒットしたわけであります。
 著者のウォルトン博士は、またもやケンブリッジのアンドリュー・ゼミ出身で、現在はダーウィン・カレッジでフェローをされています。恐らく、現在のアンドリュー門下では一番勢いのある若手かと思います。
 さてこの論文は、近年公開されたMI5の資料を使って書かれています。最近の「5」は資料公開に積極的ですし、また講演会やセミナーに出かけても現役の「5」の方を時折見かけます。それに対してMI6の方は全くの秘密主義であり、アカデミズムに対しても協力の欠片もないわけであります。そのため、最近のイギリスのインテリジェンス研究は、主に「5」の資料を使って執筆されることが多いです。基本的に「5」はセキュリティー・サービスですから、スパイやテロリストを追っかけている資料や、スパイと疑われる人物をマークしている資料ばかりであります。もしデューク東郷が実在していれば、「5」の資料の中に「G資料」といったものが存在していてもおかしくないかと思います(まぁそんなものを作成していることがばれたら確実に消されてしまいますが)。
 近年の「5」の公開資料は、ここで以前取り上げたコミンテルンのもの以外にも、戦後、帝国内の反政府組織などを調査した資料が公開され始めています(SIME, SIFE等)。これはイギリスが植民地から撤退していく過程を克明に記しており、この時期のイギリスのインテリジェンスが何をターゲットにしていたのかが明らかになりつつあります。パレスチナに関して言えば、第二次大戦直後、「イルグン」や「シュテルン」といったユダヤ人の過激派組織が、イスラエル独立のために委任統治国であるイギリス政府に対して一斉にテロを開始します。第二次大戦中のユダヤ人達は、中東においてイギリスと協力し、ドイツと戦いました。これを率いていた一人が、後にモサドの初代長官となるルーヴェン・シロアッフになります。ところが戦争終結と同時に、ユダヤ人の矛先はイギリスに向うわけです。e0173454_2363629.jpg 
 このテロは苛烈なもので、イギリスのパレスチナ高等弁務官、ハロルド・マクマイケルや、チャーチルの友人で現役閣僚でもあったモイン卿までもがこのシオニスト運動の犠牲となります。そして極めつけは1946年7月22日、イギリスの委任統治政府が多数入居していたキング・ダビデ・ホテルがイルグンによって爆破され、100名を超える死傷者を出したことでした。このテロはイギリス政府に衝撃を与え、翌年、アーネスト・べビン英外相はパレスチナからの撤退を決定します。この撤退が1948年5月のイスラエル独立に繋がるわけです。
 この経過だけを見ていますと、「一体MI5は何をやっていたんだ」、という批判が生じるのは当然です。そこで近年の資料公開によって、この時期のMI5の活動記録が公となったのであります。ウォルトン博士は論文の中で「5」の対シオニズム活動の詳細を丹念に追いつつ、「5」は第二次大戦中には対独活動で目覚しい活躍を収め、その後は「長期的な敵」となる対ソ活動に軸足を移しつつあったが、目の前のテロリズムに対しては警戒不足であったと結論付けています。
 これは限られた資源をどのように振り分けるかの問題でありまして、シンガポール陥落の項でも触れましたが、この世界では敵の優先順位を付けるのが大変困難だと言えます。ウォルトン博士は同時期のアフリカ、極東でのMI5の活動についても研究成果がありますから、大戦で疲弊したイギリスにとって、世界大に広がった帝国の保安活動というのは並大抵のことではなかった、という話になるのでしょうか。
 博士によると、パレスチナでの失態の事例は、現在の「5」が抱えている問題と通じるところがあるとのことです。やはりここはイギリス人らしく、「歴史に学べ」ということなのでしょう。
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by chatnoir009 | 2009-04-07 22:53 | インテリジェンス | Trackback | Comments(0)
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