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NHS

 本来であれば、ブルネル大学で開催されるSISGでの報告についてここに記す予定だったのですが、なんと突然のぎっくり腰のため、歩行すらままならぬ状況に・・・報告はキャンセルしてしまいました。ぎっくり腰は一日中、机にかじりついてる我々研究者にとって、ある意味職業病かもしれません。
 その代わりに、英国が世界に誇る(!)NHS(国営医療サービス)を受けてきました。NHSは戦後イギリスの国策として、「誰にでも公平な医療を」を合言葉に設置された医療制度でして、まさに当時の「ゆりかごから墓場まで」の政策の代名詞でもありました。そのポイントは、誰でも無料で医者にかかることができる、というものでして、それは私のような外国人でも例外ではありません。医療費がタダというのは一見、素晴らしいことのようですが、その反面、国の予算の圧迫や、良い医者が集まらない(腕の良い医者は私立病院を経営する)という様々な問題を引き起こしているわけであります。私もNHSで診てもらうのは初めてでして、あまり良い評判を聞いていなかったので乗り気ではなかったのですが、とにかく背に腹は変えられませんので、急患として担ぎ込まれたわけであります。
 しかし案の定、受付は長蛇の列。痛む腰をくねくねしながら受付で2時間半ぐらい待たされた挙句、診察は5分程度。しかも担当医からは、「しばらく安静にしなさい」、「背筋の運動をしなさい」というありがた~い二言をいただいただけで、湿布もコルセットの処方もなし。そのまま追い返されてしまいました。デ○ズニー・ランドのアトラクションでももう少しは時間をかけてくれます。これならば部屋で安静にしていた方がはるかに良かった気もしますが、やはりNHSの現状はこのように、患者がひっきりなしにやってくるのに対応が追いついていない、というのが現状でしょうか。恐らく昨今の不景気で、医療関係予算は削減されていくでしょうから、このような状況はさらに悪化していくのではないかと思われます。

 さて、話を元に戻しますが、今回のブルネル大学の研究会は、同大学のフィリップ・ディヴィス教授の主催によるものであります。ディヴィス教授は政治学や文化的なアプローチから英米のインテリジェンス組織について様々な研究成果を発表しておられます。最近、教授本人から読むように進められた、“Intelligence Culture and Intelligence Failure in Britain and the United States”, Cambridge Review of International Affairs, Volume 17, No.3 (October, 2004) は、英米が「情報の失敗」を犯す際、それぞれの組織的、文化的な背景によるところが大きいというものであります。具体的には、イギリスの場合、インテリジェンス組織が少数の顔見知り同士で運営されていることから、いったん、組織内のコンセンサスが纏まると、それに対する反対が出にくい、といったものでありまして、実際に1982年のフォークランド紛争や2003年のイラクの大量破壊兵器問題の際には、そのような弊害が露呈していたのでは、といった指摘があります。それに対してアメリカの場合、インテリジェンスは中央集権化されており、それが政治に直結しているので、情報が政治化されやすい傾向があるとのことです。すなわち、2003年のイラクの大量破壊兵器問題において、英米はともに「イラクが大量破壊兵器を開発しているに違いない」といった情勢判断の失敗を犯してしまったわけですが、その失敗の根源は、それぞれのインテリジェンスの特徴にあったということになります。
 それではわが国はどうかという話で、今回、私から日本のインテリジェンス・カルチャーを報告することで、比較インテリジェンス・カルチャーの議論を実現しようという試みだったのですが、私の日々の不摂生のために、すべてぶち壊しとなってしまったわけであります(ディヴィス教授、大変申し訳ありません)。
 やはりまだ座っていてもずきずきしますので、今日はこの辺で失礼させていただきます・・・。
by chatnoir009 | 2009-03-03 23:05 | インテリジェンス