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ハーバート・ノーマン

 近年、カナダの外交官、ハーバート・ノーマンに関する著作が幾つか出ていましたので、脚光を浴びているのかな、という印象だったのですが、つい最近の『国際政治』161号でも「カナダの対日インテリジェンス1942年-1945年-太平洋戦争機のE.H.ノーマン-」と題した論文が掲載されていました。ノーマンと言えば戦後GHQで対日政策に携わり、その後赤狩りによって共産主義者の疑いをかけられた挙句に自殺してしまうという話が知られていますが、本論分はノーマンが戦争中に行った対日インテリジェンスについて、その知られざる側面を明らかにしたようです。論文によりますとノーマンはCIAの前身となったOSSやMI6のアメリカ支部、BSCと連絡を持ちながら、対日情報分析を行っていたようです。また都留重人との交流は、恐らくその後のソ連側の話の伏線になってくるのかとも思うのですが、この時にノーマンを尋問したFBIは何も掴めなかったようです。個人的にはカナダが独自に対日暗号解読を行っていたこと、また不足分はBSCから提供されていたことなど、さらにはそのようなシギントからノーマンが佐藤尚武中ソ大使の対ソ工作について情報を把握していたこと等でしょう。となるとカナダは戦争中のシギント活動を評価されて、戦後のUKUSA協定に参加できたのではないか、という議論も現実味を帯びてくることになります。また戦争中のインテリジェンスに関しても、カナダがイギリスから距離を置いてある程度独自の情報活動を行っていたというのは大変興味深い話であります。筆者が指摘していますように、これまでノーマンは外交官としての側面しか知られていなかったようなのですが、本論文(最近の『スパイと言われた外交官 ハーバート・ノーマンの生涯』もそうですが)ではインテリジェンス・オフィサーとしての活躍がよく描かれています。そう考えるとやはりノーマンがどの時点でソ連側にリクルートされ、どの程度の情報が東側に流れていたのか、というのは大変興味深い話なのですが、この点に関してはまだ史料が公開されていないため真相は闇の中のようです。いずれにしましても『国際政治』で一次史料に基づいたインテリジェンスの手堅い論文が散見されるようになったのは喜ばしいことです。
by chatnoir009 | 2010-08-17 22:31 | インテリジェンス