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SGI@RUSI

 朝、いつものようにRUSIに到着すると、知り合いの研究者に声をかけられました。どうしてこんな所にいるのか聞いたら、今日はRUSIでSGIの研究会があるということでした。そうでした、最近自分の研究にかまけてすっかりと失念していましたが、今回はRUSIでの開催ということで、慌てて参加してきました。SGI@RUSI_e0173454_053728.jpg
 本日のお題は、「インテリジェンスとメディア」ということで、なかなか興味深いものでした。昔々のビクトリア時代、イギリスでは「ニュース」と「情報」は同義語でした。ところが前者はジャーナリズムとしてニュースを一般大衆向けに、後者はインテリジェンスとして情報を政府に提供するサーヴィスとして、それぞれが発展していくことになります。20世紀以降は、メディア側が「表現の自由」を、インテリジェンス側が「国家秘密を守る義務」を主張したために双方の軋轢が増していきます。そこで政府は官僚・メディアからなる検閲委員会を設置し、それが現在「D-Notice」として知られている制度の基となっていきます。今日、イギリスでは専門の委員会がD-Noticeを基に、メディアに対してはどこまで報道して良いのか、インテリジェンスに対してはどこまで機密を守るべきか、を提言するシステムとなっており、この仕組みは概ね良く機能しているそうです。とはいってもそこは本音と建前のイギリスでして、有名なBBCは冷戦期に「モニター・サーヴィス」という組織を作り、国内や海外の報道にイギリスの国益を損なうようなニュースが流れていないかのチェックや、イギリスの国益に沿うような報道プログラムの作成を行い、インテリジェンス機関や外務省のIRDというプロパガンダ組織と密接に関わっていました。いずれにしてもイギリスではメディア対インテリジェンスという二項対立ではなく、メディアはイギリスの国益を理解した上で報道活動を行い、インテリジェンスもメディアの立場を理解した上で活動しているということが重要な点でしょうか。このような傾向はアメリカのインテリジェンスも同じそうで、最近まで極秘の組織であったNSAは、かつて各国のマスコミをNSA内に招き、NSAが情報を公開できない組織であるということをヘイデン長官自らブリーフィングを行なったそうです。
 本日のセッションでも、著名なBBCのキャスターであるマーガレット・ギルモア氏と元内閣情報官のデヴィッド・オマンド氏が激しく議論されていました。最近のイラク戦争や新型インフルエンザの情報公開をめぐっても、メディアとインテリジェンスの間でごたごたがあったそうですが、BBCの不満はむしろ「情報がリニアタイムで伝えられない」ことへの不満であり、情報機関そのものへの批判ではなかったように感じました。これが我が国だと「表現の自由」>>「国家秘密を守る義務」というような構図になるのでしょうか。一般的に日本のマスコミは政府のインテリジェンス活動には後ろ向きのようです。1985年にスパイ防止法が立法化されようとした際、マスコミはこれに対して猛反対し、建設的な議論がなされなかったような印象があります。
 あと個人的に印象深かったのは、バーミンガムのスコット・ルーカス教授がすっかりインテリジェンスの住人になっておられたことでしょうか。外交史家として著名な教授は、英米関係を主題にした多くの研究を発表されています。昔読んだDivided We Stand というスエズ紛争を扱った著作では、インテリジェンスの問題にも踏み込んでおられたのが印象に残っていました。ちょっと意外だったのでコーヒーブレイクの際にお話させていただきましたが、やはり今はインテリジェンス研究が主のようです。
 
 以下にプログラムを貼っておきますが、本日の内容はSpinning Intelligence というタイトルで近々出版されるそうです。

Session 1: Globalised Realities

• Richard Aldrich - Regulation by Revelation? Intelligence, the Media and Transparency
• David Omand - Intelligence Secrets and Media Spotlights: Balancing Illumination and Dark Corners
• Patrick Porter - Good anthropology, Bad history: America’s Cultural Turn in The War on Terror

Session 2: Country by Country: USA and Britain

• Scott Lucas and Steve Hewitt – All the secrets that are fit to print? The Media and US Intelligence Agencies Before and After 9/11
• Michael Goodman - British Intelligence and the British Broadcasting Corporation: A snapshot of a happy marriage
• Rear Admiral Nick Wilkinson - Balancing national security and the media: The D-Notice Committee

Session 3: Intelligence in Popular Culture

• Pierre Lethier – The Clandestine Clapperboard: Alfred Hitchcock’s Tales of the Cold War
• Robert Dover – From Vauxhall Cross with Love: The Portrayal of Intelligence in Popular Culture
by chatnoir009 | 2009-06-27 01:18 | インテリジェンス