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2012年 01月 29日
報道によりますと米英仏の艦隊がイランへの圧力の意味でペルシャ湾に入ったそうです。これはかなりキナ臭くなってきました。まさにペリーばりの砲艦外交ですが、艦隊を出してしまうと相手が譲歩するか戦争か、という風に選択肢の幅が狭くなってしまいます。またアメリカ政府は我が国に対してもイランからの石油輸入をストップすることを求めてきており、これは早急に検討すべき問題となってきています。
恐らく日本政府は日米同盟を遵守し、また平和国家としてイランの核開発を許すわけにはいかないという観点から、アメリカを支持せざるを得なくなるでしょう。しかし2003年のイラクの教訓として、本当にイランの核開発が危険な段階まで進んでいるのか、ということを一旦検討する必要があります。一説によりますとイランは十分な量のウランを確保できていないため、今年度中に核兵器を持つことは困難だとも推測されています。我が国もこの点を精査しないといけないのですが、日本の対外インテリジェンスはイランに情報網があるわけでもなく、また理系の分析官も恐らくいないでしょうから、政策決定に必要なインテリジェンスを導き出すことができません。イランであればイスラエルやイギリスが情報を持っているはずなので、それら国々から情報を提供してもらわないと、また根拠の薄い対米従属が繰り返されることになります。我が国に情報や外交力があれば独自にイランとアメリカの仲介役にもなれそうな気がするのですが、現状では難しいでしょう。 ただ戦争となるとイランがホルムズ海峡を封鎖しようとしても、アメリカはこれを武力で排除することになりますし、陸上戦闘はイラクの二の舞になるだけですので、瀬戸際外交を続けるイランも偶発事故や読み違いをしない限り戦争には踏み切らないと思います。 しかし中長期的な視点で言えば、アメリカは中東へのコミットメントをできる限り減らそうとしているように見えます。エネルギー問題に関してはアメリカ西部に埋蔵されている莫大なオイルシェールを有効活用できそうになってきたようですので、石油を理由に中東問題に血眼になる必要はなく、それと反比例するかのようにオバマ政権は環太平洋へのコミットメントを増しつつあるようです。アメリカが中東から去ると困るのはイスラエル、サウジアラビアあたりでしょうが、とにかく今回のイラン問題はアメリカが今後中東にコミットし続けるかどうかの試金石となると思います。果たしてまたイスラエル・ロビーが勝つのか、それとも政権がそれに抵抗するのか、いずれにしても3月のイラン大統領選挙まではどちら側もやり難いのではないでしょうか。 2012年 01月 19日
しばらく橋下徹大阪市長と山口二郎北大教授のテレビ討論が話題になっておりましたが、その中で橋下市長が何度も学者は現場を知らないと指摘されていたように、一般論としてやはり政治学者は現場に対してあまり関心を示さない傾向があると思います。例えば実際の政治家に関心を持たない政治学者(評論家ではない)も珍しくありませんし、国際政治学の分野でも現実にそぐわなさそうな理論や未だにイデオロギーに縛られたような研究に出くわすことがあります。
まぁこんなことは昔から言われてきたことですので今更感がありますが、これは私自身にも思い当ります。以前のエントリーで書きましたように、私は読書のみで「国際政治における米英の特別な関係」を無邪気に信じていたクチですが、あるイギリスの外交官からそんなものは幻想だと言われてしまったことがありますので、私も現場を知ろうとせず、本の知識を信用してしまっていたようです(ある一定の時期であれば特別の関係は成り立っていたとは思いますが)。 では学者が現場に精通していれば良いのかというと、現場の人間、例えば社会科学分野であれば霞が関の官僚の方が圧倒的に詳しいに決まっていますし、官僚の方も実際そう思っています。たまに学者が無知を晒してしまうと、官僚ならば「さすが○○先生!しかしそこはこうでは」と上手くフォローしてくれることが多いので学者の方は勘違いしてしまいますが、橋下市長は全く容赦しなかっただけのことです。 そうなると社会科学系の学者はその存在意義を問われることになってしまいますが、やはり学者は学者らしく特定の専門分野を極めることに精進すれば良いのです。政治学でも歴史学でも一流の研究には人を唸らせるものがあります。ただ象牙の塔にこもるのではなく、研究を進めていく過程で現場や現実を知っておかなくてはなりませんが、意外とここが軽視されがちなのが問題なのだと思います。それは私のやっているインテリジェンス研究においても例外ではなく、いつもここでも書いていますようになるべく現場の人々から話を聞いたり、実務についての知識を蓄えておくことが資料や書籍を読む際に活きてくるわけです。 そもそもごく狭い分野にしか精通していない学者が、軽々しく専門外のことでテレビのコメンテーターを務めるような風潮の方がより問題だと思います。もちろん学者のやるべきことは研究の他にも教育や社会の啓蒙といったことも挙げられますが、啓蒙活動は自分の専門を極め、その上で広い見識を持った大家の方にお任せしておけば良いのではと思います。かのマックス・ウェーバーも学者は自己抑制によって真理の追究に邁進し、政治に関わるべきではないと書いております。「おいおい、21世紀にもなってウェーバーかよ」と突っ込みを入れたくなる気持ちもわからないではありませんが、ウェーバーが言わんとしていうのは、学者が現実に踏み込みすぎることで特定の思想やイデオロギーに染まってしまい、まともな研究ができなくなってしまうというごく当たり前の事だと理解すれば、それは今の日本の学界にも思い当たる節があるのではないでしょうか。 ここまで書いている内に先月の中央公論に掲載されていた井上章一氏の寄稿を思い出しましたが、日本では客観的なはずの学説が、学閥などの政治力学によって歪められてきのだと。やはり学者はいつも初心を忘れず学問に邁進するのが理想ではあるのですが、意外とそれは難しいようです。しかしそれを乗り越えた学者の発言こそが社会を啓蒙し、重みをもって受け止められることになるのです。 2012年 01月 17日
報道によりますと、東京電力福島第1原発事故直後の3月14日、放射性物質の拡散状況を予測する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による試算結果が国民よりも先に米軍に伝えられていたとのことです。SPEEDIの情報が国民、特に福島県民に伝えられていなかったというのは論外ですが、もう一点気になることがあります。
米軍は「トモダチ作戦」を実行するにあたって、偵察衛星や無人偵察機グローバルホーク、大気中の放射性物質を観測するWC135などを使って独自の情報収集、分析に努めたようです。その結果、アメリカ大使館は80キロ圏内を危険と判断して在日アメリカ人に避難を勧告したようですが、ここで確認しておかないといけないのは、日本とアメリカの間で原発に関する情報のやり取りや共有ができていたかどうかであります。日本側から米軍にSPEEDIの情報が提供されているのであれば、ギブ・アンド・テイクでアメリカ側から収集された情報が日本側に提供されていても良いように思うのですが、アメリカの80キロに対して日本政府は30キロ圏からの避難を勧告するなど、どうも日米の間で情報が共有されていなかったような印象を受けます。要はアメリカが日本を信用していなかったとも言えます。 一説によりますとアメリカはエシュロンによって日本政府の通信を傍受していたとも言われていますので、表面上は「トモダチ作戦」で日米、特に自衛隊と米軍は結束を示せたものの、裏舞台では日米政府間の相互不信がかなりあったのではなかったか、という印象です。果たして自民党政権であればこのような情報のやり取りがスムーズにいったのかどうかわかりませんが、今後半島情勢や台湾問題での有事を考えた場合、お互いの情報が共有されないということは危ういことだと思います。 2012年 01月 12日
昨日、イランの科学者、ムスタファ・アフマディ・ロウシャン氏が路上で爆殺されるというニュースに接しました。同氏はイラクの核開発、特にウラン濃縮の工程に関わっていた人物のようです。報道によりますと、暗殺者はバイクで氏を乗せたプジョー405に近づき、後部座席ドアに吸着型爆弾をセットして走り去ったとのことです。ロウシャン氏は即死とのことですが、同乗者と運転手は何とか命を取り留めたようで、これは明らかにロウシャン氏のみを狙った暗殺工作のようです。
もう様々なところで言われていますが、本工作はイスラエルの情報機関、モサドによる可能性が高いとのことです。私も個人的には恐らくそうなんだろうと思います。歴史を振り返ればモサドは1962年にダモクレス作戦を実行し、エジプトのミサイル開発に関わった科学者を殺害しました。この時はイセル・ハルエル長官自らが西ドイツに乗り込み、ミサイル開発に関わっていたドイツ人科学者への銃撃に参加したほどです。また1979年にはイラクの核開発を阻止するため、フランスからイラクに輸出されようとしていた原子炉の部品を爆破し、さらに買い付けに来ていたエジプト人科学者をパリで葬っています。最近ではこのブログでも取り上げましたように、スタックスネット・ウイルスによるイラン核開発施設の暴走の誘発や、2010年にもイラン人核物理学者2名が殺害されており、この手の秘密工作の事例にはきりがありません。 もし今回の犯行がモサドによるものであるならば、これはイランに対するイスラエルからの警告に他なりません。イスラエルはスタックスネット→暗殺とイランに対する行動を徐々にエスカレートさせていますので、これ以上続けると武力行使を行うぞ、という意味合いが含まれているのではないでしょうか。上記のイラク核開発に対する妨害工作の後もイラクは核開発を放棄しませんでしたので、最終的に1981年6月、有名なオペラ作戦によってイラク軍はイラクの核開発施設を電撃的に空爆しました。ここから言えるのは、現在のイラン情勢も相当緊迫しており、もし有事となれば石油輸送ルートであるホルムズ海峡が封鎖されてしまうかもしれませんので、我が国にとっても対岸の火事とはなりえません。 また今回の一件は、3月のイラン大統領選挙にかけての揺さぶりとも捉えることができます。この事案がイランの大統領選挙にどのような影響を与えるのか、また今回の暗殺は事前にアメリカに伝えられていたのか、この辺が気になるところです。ガイドナー財務長官やクリントン国務長官の発言を見ていますと、今回の一件はアメリカ側に伝わっていたとも考えられます。本日、アメリカのガイドナー財務長官から対イラン経済制裁への協力を求められたことについて我が国は慎重に考慮しないといけません。当面イラン情勢から目が離せないようです。 2012年 01月 11日
今週、拙著『インテリジェンス-国家・組織は情報をいかに扱うべきか』を上梓しました。「あとがき」にも書きましたが、本書はこれまで様々な場所で行った講義や講演(特に防大での集中講義)をまとめたものでして、包括的にインテリジェンスを学ぶための入門書という位置づけです。ちくま書房の編集者の方からは既に何年も前からお話をいただいていたのですが、作業を怠けたり当初は高坂正堯先生の名著『国際政治』のように、国際政治を通じて人間の本質に迫るような、さらりと読めて奥の深い読み物を目指したのですが、青銅程度の自分にそんなものは書けないと早々に悟りました。それではインテリジェンス理論の入門書を、と意気込んでいたら、茂田大使がローエンタールの『インテリジェンス』を翻訳されていることや、小林教授がインテリジェンスのテキストを執筆されていることを伺ってしまいましたので、アメリカ流の理論入門書はそちらにお任せしようと。それで結局『日本軍のインテリジェンス』で論じきれなかった、国家や組織がインテリジェンスを活かすにはどうすれば良いのか、といった自分なりの疑問をテーマに、イギリス流の歴史や事例を重視する形でインテリジェンスを論ずることにしました。 本書は元々ハードカバーでという話だったのですが、出版不況の煽りを受けて学芸文庫という形で出版されることになってしまいました。こうして文庫のために書き下ろすことになったわけですが、文庫の方がより多くの方に読んでもらえるのではないかと期待しております。何と言っても価格はローエンタール本の四分の一程ですから(笑)。 ![]() ↑ 中国人のセンスもなかなかのものです。
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